第5話

兄の目の色。-その後のおはなし-
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2026/03/13 08:00 更新
あの日の夜。

星導家は、いたっていつも通りだった。


玲琉は音楽教室での出来事を話して、
誇柄はドラムのリズムを机で刻み、
絇仁は鼓多の横に、ぴったりとくっついている。

鼓多も、ちゃんと笑っている。

それを、見届けた上で。


結侑は静かに立ち上がった。










結侑
ちょっと、コンビニ行ってくるね







誰も疑わない、いつもの声だった。











夜風は、思ったよりも冷たかった。


家から少し離れた公園のベンチに座る。


ふぅ、と息を吐く。

その瞬間、
手に震えが、はっきりとわかった。
結侑
(……遅いよ。)


今さら。
怒りは、もうとっくに消えているはず。

残っているのは。

「もし自分が間に合わなかったら、」という想像。

鼓多が一人で立っている姿。
震えていた声。
結侑
……怖かったよね

誰に言うわけでもない。

でも、口に出してしまうと、
胸の奥がじわじわと痛むのが止まらない。



長男だから。

泣く前に動く。
怒る前に守る。

それが、当たり前になっている。
でも、今日は少しだけ。

怖かった。

自分に中にあった、“本気の怒り”が。
あんなに、冷たい声を出せる自分が。
結侑
…ちゃんと兄、できてんのかな
誰もいないから、弱い声を出す。
この姿を見せれる人が、いないから。






その時、






絇仁
ゆさん






背後に、絇仁が立っていた。

結侑のパーカーを羽織って、息を切らして。

結侑
っなんで……
絇仁
いなくなったから

当たり前のように言う。
結侑は、少し口角を上げる。
結侑
ごめんね

絇仁は黙って首を振り、結侑のすぐ隣に座った。
絇仁
ゆさん、手、つめたい
結侑の震えた手を、ぎゅ、と握る。
小さくて、あたたかい手。

絇仁
おこったから?
結侑
…うん
正直に、小さく頷く。
その姿を見て、絇仁は少し考えて、また口を開く。
絇仁
ゆさんが怒るの、ぼく好き
結侑
え?
絇仁
だって、守るときの顔だから
どちらの胸も、きゅっとする。
絇仁
でもね
絇仁は続ける。
絇仁
ゆさんがこわがってる顔するの、きらい






見抜かれていた。







結侑は、笑おうとする。
結侑
してないよ
絇仁
してるもん
即答する絇仁。
息が詰まる結侑。
絇仁
ぼく、わかる











しばらく、どちらも何も言わなかった。

そして。
結侑は、静かに息を吐いた。
結侑
…本当は、怖かった
絇仁
うん

否定しない。励まさない。
ただ、手を握る。

その姿は、結侑にそっくりだ。
絇仁
でも、ゆさんがいたから、こた大丈夫だった
「大丈夫だった」
その言葉が、深く落ちる。

長男じゃなくても。
完璧じゃなくても。

ちゃんと、届いていた。

結侑は、そっと絇仁の頭を撫でる。
結侑
ありがとう、くにお
絇仁
うん
結侑
このこと、内緒ね?
絇仁
こたとちむには言わない
結侑
れるちは?
絇仁
多分、バレてる
思わず、二人で笑い合う。

結侑の手の震えは、いつの間にか止まっていた。




帰宅して、玄関を開けると、

鼓多と、玲琉、誇柄が待っていた。
鼓多
おかえり
ずっと待っていたかのように、優しく微笑む。
結侑
ただいま





鼓多
今日さ、
結侑
うん
鼓多
守ってくれて、ありがとう
結侑は、目を細めて笑う。
結侑
当たり前だよ
その言葉に、鼓多は首を横に振った。
鼓多
当たり前じゃない
いつもに増して、まっすぐな目。

その目を見て、結侑は思う。












守ることは、怖い。





でも。



この子たちがいるなら、何度でも立てる。







結侑
こったん
鼓多
うん
結侑
強くなろうね。一緒に
鼓多も笑う。
鼓多
うん



今日の夜は、長く、静かに更けていく。

優しい長男は、完璧じゃない。

でも。


弱さを隠さず立ち上がれる人は、
きっと。

本当に強い。

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