第34話

第四話 中編-2
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2025/10/04 13:28 更新
今は誰?
私は誰?
もうわからない。

画面越しの自分を見つめた。
そこにはキメラがいた。幾重にも影の重なったあべこべな異形が。
電車の水蒸気と二酸化炭素で重たい空気がうまく吸えない。
誰かの視線が乱反射して私を貫いて動けなくさせる。
喉の奥からいき苦しさが込み上げてくる。

見ないで、見ないでよ。
視界がぐにゃぐにゃ歪んだみたいに感じて気持ち悪い。
遠くぼんやり聞こえたアナウンス。
重い体をなんとか引き揚げ電車の外に這い出た。
這い出た先は降りたことない駅だった。気づけば見慣れないホームの人の流れに取り残されて1人ぼんやり立ってた。
朝の通勤通学ラッシュの時間帯にも関わらず人のいないホームはどことなく不気味だったが今はその不気味さに感謝すらしてた。
駅名の看板を見てみるとここはどうやら学校の最寄駅から一つだけ前の駅であることがわかった。
名前だけなら知っている駅だったがこの一年ちょっと一度も降りたことがなかったからか異空間のように思える。
静かなこの空間だとどく、どく、どく、どく、と嫌に跳ねる心臓の4拍子とそれに合わせて歌う「わたし」の歌声が聞こえてくるみたいで、自分が訳もわからず興奮していることが嫌でもわかっちゃう。

深く深く水を肺に取り込んで、色のついた水を吐き出すようにひとつ深呼吸をする。
すうっと「わたし」が消えはしないものの薄れたことに少しだけ安心する。
クリアな世界が少しだけ戻ってくる。

そうだ、こんなところで何をやっているのだ、私は。
ここに人が来ないとも限らない。早急にここを出なくちゃ。
今の私を見られたらどうするのよ。
それに、『私』は抜けてるけどサボりはしないし、家での私は15分前行動。遅刻だってしない。
とは言っても電車に戻る気にはなれなくて、仕方なく駅を出た。不安を訴えて動きたがらない心は未読スルーして。

外は、閑静な住宅街だった。
いっつも降りない駅だからもちろん学校への行きかたなんて知らない。利用者の少ない駅のようだから案内看板も、もちろんない。
堀田鈴音
堀田鈴音
、、、はぁ
地図も読めないのでマップのナビ機能で行くことにする。マップを開くのもまたひさびさのことだった。
あるけどあるけど変わり映えしない住宅街の景色にGPSが間違ってるんじゃないかとか同じ制服の男子が目の前を横切って気付かれたんじゃないかとか不安になりつつゆっくりと行く。
それでも見知った道には辿り着かない。
堀田鈴音
堀田鈴音
あれぇ?
着いたのは人気のない教会の裏口のようなところ。
朝の光を浴びる美しいステンドグラスの向こう側には分厚そうなカーテンが束ねられている。
不思議に思ってスマホの画面を確認してみても変わらずここが学校だというように目的地のマークと現在地のマークが重なって表示されているだけ。
よくわからないけど門は少し開いていて、カギがかかっている様子もない。
きっと、ここから動いても迷子になるだけだ。
それなら、入ってみるしかない。
大丈夫、こんなところに人なんて来ないのだから私がここに居たことなんて誰も気づけない。

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