私のはねた髪の毛をくるくると触りながら、ご機嫌そうに歩く八輪くん。
痛い痛い、視線が痛い…!
登校中に八輪くんと出くわしてしまった。
そのまま一緒に登校してきたのがいけなかったんだと思う。
教室にたどり着くまで、どれだけいろんな人に見られたことか…。
特に女の子たちのヒソヒソ声とか、私を見る目が怖くてしょうがない。
唯一助けを求められる恵理を発見し、すぐさま声をかける。異様な光景を見るよな目で私を見ていた。
私と八輪くんを交互に見ながら混乱している様子の恵理。
うん…それは私も聞きたいかな…。
そうして教室の隅っこ…と言っても、私の席へ移動した。
私の席は窓側の一番後ろで、その隣に八輪くんの席がある。
いきなり「八輪くんとお付き合いすることになりました」なんて言っても、どうしてそうなった?ってなるし。
ここは順を追ってゆっくり…
そう思っていた矢先、サラッとなんでもないみたいな口調で宣言した八輪くん。
やっぱり言われた…まあでもそうだよね。
昨日までただのクラスメイトだった人といきなり付き合うだなんておかしな話だ。
納得…してもらえたかは分からないけど、とりあえず一件落着…かな?
なんだかんだありながらもそのままSHRを迎え、お昼休みまでは特に何事もなく時間が過ぎていった。
いつものようにそう声をかけ恵理の席に向かおうとすると、腕をがしっと掴まれた。
表情の変化が乏しい八輪くんだけど、私にもわかるくらい呆れている。
私何かおかしいこと言った…?
何が何だかわからないまま、八輪くんに引っ張られてどこかへ向かう。
意外だとでも言うような声色でそう言う八輪くん。
若干顔ひきつってたような気もする…。
ギィ、と扉を開けると、青空が広がっていた。
普通なら入れなしい、入ってはいけない場所のはず。
そこにいとも簡単に入れたことへの驚きと、屋上に来れたという嬉しさが相まって、なんとも言えない顔になる。
ここにいたくないと言えば嘘になるが、先生に叱られる方がよっぽど嫌だ。
一度来られただけで十分。
それを八輪くんが言っちゃう…?
いつも注目を集めてる人が何言ってるんだか。
仕方なく八輪くんが座った隣に腰を下ろすと、八輪くんは何やら満足げに頬を緩めた。
え、自覚ないのか…。
私が持ってきたお弁当を見てそう言う八輪くん。
当の本人は菓子パン一つだけ。
…これはもしや、狙ってるな?
お弁当は私が朝起きて作っている。
両親は共働きだから朝は忙しく、家を出る時間も早いため自分で作っているのだ。
わ、私があの「あーん」をするの…?
八輪くんに…?
まぁ、たしかにそれはそうかもしれない…。
どうしよう、これ想像以上に恥ずかしい…!
今までこういうのはしたことなかったからすごく緊張するし、何より八輪くんの顔が良すぎて近くで直視出来ない…。
へぇ…という感じでもう1度卵焼きを見る。
こういうのはそれぞれ好みがあるから難しいとは思う。でも、八輪くんは甘い派の人だったんだ。
よかったな。
むっ…何その、嘘でしょ?みたいな顔。
そんなに意外なこと?
普通ならイメージアップするとこじゃない?
私に何を望んでいるのやら…。
私そんなふうに思われてたの?
というか、なんでそんな私を彼女にしようと思ったのかも理解し難い。
あのことを言われたら何も言えない。
絶対転んじゃダメなときに転んだからな…。
急にどうしたんだろう…なんか八輪くんの纏う雰囲気が、すごく柔らかいものになってる気がする。
嫉妬じみた言葉とか、ムスッとした表情とか…まるで好きな子に対する反応みたいで、戸惑ってしまう。
なんでそんなに心配するの?って聞きたい。
…だけど、そんなこと聞いたって不毛だ。
サラッと言われてスルーしそうになった。
それ、実質「僕の家でご飯作って食べよう」ってことだよね…?意味合い的には…。
……あれ、この流れはもう断れない感じ?
だってもう、声が弾んじゃってるもん八輪くん。
こんなに機嫌いいとこ初めて見たよ?
付き合って2日目で彼氏の家にご飯を作りに行くなんて聞いたことないし、かなり不安だけど…。
八輪くんのいつもとは違った楽しそうな顔を見たら行くっきゃない。
それに、家に来てもいいと思われてるんだと思うと嬉しくて。
私も少しずつ、八輪くんのことを好きになりつつあるのかもしれないって思った。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。