社の奥から、まるで地鳴りのように“影”が噴き出していた。
黒い霧のように空を覆い、木々がざわつき、空気が震える。
ミオが震える声でつぶやく。
遥真の琵琶が不協和音を響かせ、朔夜の式神が空を睨む。
澪音だった。
彼女は社の中央に立っていた。
膝をつき、うつむいたまま、黒い影に包まれている。
遥真が駆け出そうとする。だが、影が彼を弾いた。
それは、彼女の心そのもの。自らを守る、絶望の結界。
ミオが呟いた。
僕は踏み出した。
影の結界は、僕を拒まなかった。
いや――受け入れてくれた。
澪音が顔を上げた。
その瞳は、涙で揺れていた。
影が、波紋のように揺れ、少しずつ薄れていく。
朔夜が印を切り、遥真が澪音の名を弾き、ミオが光を放つ。
結界が音を立てて崩れ――影が、浄化された。
風が吹く。
穏やかな、まほろばの風。
澪音が、僕の手を握り返した。
その言葉が、すべてだった。
まほろばに光が戻る。
影が去ったこの地で、人々はまた静かに生きていく。
僕はまだ、自分が何者だったのか、全部を思い出せたわけじゃない。
でも、それでもいい。
――そう信じられるから。
終わりと、始まり。
影の向こうに、確かに光があった。
――終章。まほろばの影を祓う者たち。
END












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。