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第1話

film 1
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2025/05/19 08:52 更新
映画館が好きだ。

学校帰り、仕事帰り、
一人時間の満喫、彼氏とのデート。

彼女に引っ張られる彼氏に、子供連れの家族。



チケットを発券するときのキラキラとした目に、
緊張感のある席までの通路、
ところどころ笑いが起こる開演前のショートムービー。

まるで宝箱に触れたかのようにパンフレットを胸に抱き
映画館をあとにする靴の音。

全部、煌めきに溢れた世界を観ているようで好きだ。
ヨンジュン
ヨンジュン
よっし、今日も従業開始!
今日も今日とて、
バ先から配布されている制服に身を包んで、
更衣室のベンチに座って少々スマホをいじったあと、
ロッカーにスマホを投げ込んで膝を叩いて立ち上がった。



地元の小さな映画館。

スクリーンも全部で2つと、かなり小規模。

地元の映画好きの集まりによって、
映画館がここら一帯になかった時代に
建てられたらしいここは、

年季が入っているわりには
最新射影機に最新作品が揃っており、
まあそれなりに人気のある場所だ。



約2年前。

バイトができる高校に入学してすぐ、
ここでバイトすることを決めた。

幼い頃から何度も足を運んだ思い出の映画館。

最初は清掃バイトのつもりで申し込んだものの、
なんだか愛着がわいてきてからは
テスト期間以外ほぼ毎日のように
シフトを入れていろんな役割を請け負った。



今どき珍しい、カウンターでの発券。

それから、ポップコーンやチュロス、
飲み物の提供をするカウンター。

劇場に入場するときの
チケットの確認スタッフだってしたし、
最近上映している映画のグッズを並べたり、
最新映画情報を眺めながらチラシを置く仕事もした。



とりわけ金曜の夜と土曜の昼夜、
それと日曜の昼は客足が増える。

そのため俺含めバイトスタッフと、
少数の正社員でぐるぐると
役割をローテーションしながらこの劇場を管理していた。
ヨンジュン
ヨンジュン
……………………えっ?
.
ほんっっっと〜〜〜にごめん、ヨンジュナ!
ヨンジュン
ヨンジュン
いやいやいや、え、マジで言ってるんすか
.
マジ…
ヨンジュン
ヨンジュン
俺1人で劇場掃除とか何の罰ゲーム?!
.
今までだって1人でしてたじゃん、
ヨンジュン
ヨンジュン
それは1劇場!×2とか無理ゲー!
目の前で手を合わせるのはここの店長。
(仮)。



あまりのスケジュール管理の下手さに
正社員たちはヤキモキしている。

その証拠に、これ。



俺の手元に握られているシフト表。

相変わらず俺のシフトが
いっぱいなのはどうでもいい。

平日は放課後の数時間しか働いていないし、
平日入る分土日勤務は少ないから
103万の壁は超えそうにないし。



そんなのはもうどうでもいい、この際。

毎週金曜、最終上映時間は19:00-21:00帯。

このあとに清掃作業をして、早くて21:30帰宅。
ヨンジュン
ヨンジュン
…え?店長バカなんすか?
いつもは少なくとも2-3人はいるはずのシフト表が、
俺の名前以外すっからかん。

それはもう、綺麗に。

店長は施錠のためいるけど、
この感じフロアの掃除をしたら手一杯になってしまう。
.
入りたい子がいなくてさ…
ヨンジュン
ヨンジュン
ほんっっとに店長気弱ぇな!
多少無理やり入れていいんですよそんなの!
肩を縮こまらせた店長に溜息一つ。
バックヤードには重苦しい空気が流れている。
ヨンジュン
ヨンジュン
…わかりました、とりあえず1ヶ月頑張ります…
.
よ、ヨンジュナ…!
ヨンジュン
ヨンジュン
これに懲りたら来月からは
ちゃんとシフト管理してくださいね…!
釘を刺してバックヤードを抜けて
カウンターに立つと、
今日も楽しそうな声が聴こえる。

うん、こんなことがあってもやっぱり
ここでの仕事は辞められない。



映画館が、好きだ。

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