放課後の空気はまだ昼の熱を抱えたまま 、
淡い夕焼けを廊下へと映していた .
蝉の声が途切れ途切れに聞こえて 、
夏と秋がせめぎ合う季節の匂いがする .
友達に腕を引かれながら 、
私は苦笑しながら小走りでついていく .
"バスケ部の練習風景見学しない?"
という彼女の提案がキッカケになるのだが 、
気軽な誘いのはずが 、体育館へ向かう
足取りはどこか落ち着かない .
扉の向こうからはボールが床を打つ乾いた音に 、
バッシュが滑るたびに擦れる音 .
少し開いたドアから吹き出した空気は熱くて 、
ワックスの香りとゴムの匂いが混ざっている .
高窓から射す夕日が木の床を派手に染めていた .
私たち以外にもギャラリーはいて 、
様々な声が周囲から飛び交っていた .
うちの高校のバスケ部にはイケメンが多いとの
噂は常々小耳に挟んでいたのもあり 、
その人たち目的の女子生徒も多数いるのだろう .
こういうのにめっきり疎いのだけれど 、
どこかで聞いたことのあるような名前が数人 .
そんな中でも特に目を引いたのは 、
攻めと守りでコート上を縦横に駆け抜ける男の子 .
軽やかなドリブルに空を切るようなジャンプ 、
橙色のような茶髪が汗で額に張り付いても
真剣な表情が眩しくて 、カッコよかった .
後輩 、なのは分かるんだけど ……
記憶にある限りの情報を思い返していれば 、
ボールの行方を追えていなくて .
顔面まで迫っていたボールが
ドンッ 、と鈍い音を立てて転がり落ちる .
顔中に走る衝撃 、鼻の奥が詰まるような熱 .
俯けば 、床へポタリと垂れる …… 血 .
手で覆った指の隙間から赤い雫がぽたりと落ちて 、
恥ずかしさのあまり頬が一気に熱くなる .
周りにいた人も心配の声をかけてくれる中 、
まるでヒーローみたいな声が飛んでくる .
顔を上げれば 、先程まで目で追っていた
男の子が目を見開いて立っていて 、
息を弾ませ 、真剣な表情で私を覗き込むように
屈んできた彼にビクッと肩が跳ねた .
有無を言わせない声に負けて 、
肩を支えられながらゆっくりと立ち上がった .
体育館のざわめきがゆっくりと遠のいていき 、
廊下には夕暮れの光が長い影を作り 、
私たちの足音だけが響く .
彼は私の歩幅に合わせてくれて 、
時折こちらを確認してくれるその優しさが
小さく胸をくすぐった .
保健室に着くとソファに座るよう促され 、
手際よく氷袋を用意してくれた .
後輩の男の子に至れり尽くせりしてもらって .
見ず知らずの先輩にここまでしてくれるなんて
これで彼女さんとかいたら 、どうしよう .
…… いや 、いないわけがないよね .
声を上げた彼を見上げれば 、
顔筋を垂れる汗がきらりと煌めいて .
海色と下眼光に光るピンクが私を捉えて 、
ゆらゆらと揺れる瞳孔から目が離せなかった .
急に呼ばれた私の名前 .
そしてずっと記憶を辿っていたのが伝わったのか
自ら名乗ってくれた彼 、北見くん .
純粋な疑問を問いかければ 、
慌てたように弁解する姿がなんだか可愛くて .
無意識のうちに口角が上がって 、
小さく笑いが溢れた .
パッと手で口元を抑えて隠すけれど 、
ぱちくりと瞬きをした後 、吹き出すように
北見くんも笑みを浮かべた .
…… "いつも" 、?
さっきからずっと 、北見くんの言動が気になる .
今日 、初めて北見くんとはお話したはずなのに
私の外見を知っていたのはもちろん 、
フルネームでお名前も知っていた .
誰か伝いで私の話されてるとか … ?
でもバスケ部に知り合いいるかなぁ 、、
ソワソワと前髪を弄る仕草を見せる彼が
やっぱり可愛く見えてしまって .
さっきまでのバスケしている姿は
とってもカッコよかったから … これが
ギャップってものなんだろうな .
先程の北見くんの姿が思い浮かべていた直後に
その問いを本人から投げかけられるとか .
分かりやすく顔に出ちゃって 、
胸の奥が一気に熱くなって頬がじわりと
赤く染まっていくのを感じた .
言葉がつっかえて視線を落とすしかない私 .
絶対に 、北見くんにも顔が赤いのバレた .
しばらく沈黙が続いたあと 、
膝を曲げて屈んだ彼が顔を覗くように
ジッと見上げてきた .
静かな保健室の中に 、お互いの鼓動だけが
確かな音を立てている気がした .
程よく日焼けしている彼の肌が 、
耳から順に赤く染まっていって .
二人同時に 、慌てて視線を逸らした .
彼に彼女がいないわけないよね 、なんて
思い込んでた数分前の自分へ .
…… いて欲しくないな 、かも .
ふぅ 、と息を吐き出したあと再び目線を
合わせてきた彼は 、バスケをしていた時
みたいな真剣な表情を浮かべていて .
自分でも驚くほど 、敬語で返事をしていた .
それは 、北見くんの夕日の色をいっぱい集めた
橙色の茶髪の隙間から覗く海色の瞳が 、
私のことを離さなかったから .
そんなことを言われて 、
意識するなって言う方が無理がある .
熱を帯びた頬を隠しきれないまま
こくりと小さく頷けば 、無邪気そうな
明るい笑みを浮かべてくれるんだ .
キミばっかり私のこと知ってるから 、
私ももっと 、キミのことが知りたくなったよ .













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。