Side鴇崎
vsセルビア戦。
俺はベンチスタートになり、試合に出られる可能性は低かった。
が、
好きピがかっこよすぎて泣ける。
相変わらずのバカデカボイス好きすぎる。
何あのカット意味わかんない上手すぎだろ。
智さんとはまた違うカットなのよねうん。好き。
結局あのまま勝っちゃった。エグすぎて俺の語彙力はもうない。
まぁ俺のことですから小川さんに話しかけるなんて無理ですよ。
ナイスレシーブでしたぐらいしか言えませんよ。
W智大の会話を後ろからさりげなく盗み聞きぐらいしかできませんよ泣
翌日のvsキューバ戦。
今日のスタートセッターはなんと俺。
準備は念入りにしてきた。
けど、
こいつには見抜かれるんよなぁ…
自分はタツの変化にこんな気付けるのか不安になった。
お前が悔しがってどうすんだよ
一瞬そう思ったけど、理由がわかってなにも言えなくなった。
点を取った時は喜ぶ。
負けた時は悔しむ。
こういうことはしてきたけど、
タツの前でわくわくすんのは初めてな気がする。
バチン!
後ろからセキさんがケツを叩いてきた。
そんな曇りなき眼で言われても、
地味に痛いっす。
色んな人が声をかけてくれる。
こういうことをされると自分はまだまだ若手なんだなぁと思う。
でも、この期待に応えなきゃいけない。
VNLと書かれた布をめくればもうコートだ。
自分のユニフォームを着ている人も見えてきた。
歓声が聞こえる。
Side大塚
会場にスタメンの名前がコールされる。
その中にトキの名前もある。
「え?こんな人いたっけ?」
「あれだよALLFORで自己紹介してた子」
「ほぼ無名な子だよね。どんなプレーするんだろう」
少ない日本人ファンからの声が聞こえる。
SNSでも代表入りが発表された時から疑問視する声も上がっている。
でも、トキは大丈夫。
そう思えるだけの実力は持っているから。
トキは目立たないタイプのセッターだ。
派手なプレーやツーアタックはほとんどしない。
それでも高さを活かしたネット際の処理、ラリー中でも変わらない安定したトス。
いつでも下振れがなくて完成度が高い。
小っちゃい頃からずぅっとそう。
プレースタイルは大学でも変わらないし、今の代表でも変わらない。
だからスーパーリーガでプレーするトキを見た時は衝撃だった。
荒々しくて、凶暴で、暴力的なほどの強さと高さ。
アタッカーを喰ってしまうほどの圧力。
体中からギラギラとした熱気が出ていた。
ブラジルでプレーしているトキと、日本でプレーするトキは違う。
その方がそれぞれのチームに合っているんだろうし、結果に結びつくとは思う。
…けど、やっぱり日本だとトキの強みは発揮されへんのやろうな
悔しいし、悲しくもあるこの事実。
第3セットは俺も途中出場することになった。
キューバの強烈なサーブが来る。
レシーブははじかれ、審判台の方に近くなる。
トキはカバーに入り俺もラストタッチの為に少し近づいた。
スパイクを打つにしても、センター寄りになってしまうと判断した。
トキの声が響く。
それを信じて助走の準備を取った。
飛び込みながらワンハンドでギリギリ繋いだボールは
これ以上ないトスになった。
ハイボール程でもない高さで軌道はいつものトスと
ほぼ変わらない。
鋭角に打ち込めばボールはコートに落ちる。
決めた時に一番早く俺に駆け付けたのはトキだった。
汗で顔をぐしゃぐしゃにしながら俺を抱きしめてくる。
そう言ったトキの顔は嬉しそうで、楽しそうで、幸せそうだった。
…このトスが来るなら、心配はいらんな。
確証はないけど、そう思えた。
Side鴇崎
ブラジルラウンドが終わって、もうリオを出ることになった。
キューバ戦の後はドーパミンドバドバであんま記憶がない。
ミキは俺と入れ違いでクルゼイロからブルテに移籍するみたいだから、
タツとミキでスリーショット撮ったところまででもう覚えてない。
あれよあれよとイタリア戦になって、気が付けばもう空港。
…日本に戻った後、
俺は自分がSNSをやっていないことをひどく後悔するのであった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!