💎side
見慣れた道を歩く。
5年ぶりのこの景色。
5年前、
僕は元彼の借金から逃げるために、海外へ向かった。
けど、どこまで逃げても、逃げても、
電話や、何通もの手紙が押し寄せる。
「金を返せ」って。
時間だって、関係ない。
夜遅くも電話が鳴り止まない日だって
何度あったことか。
自己破産、という方法もあった。
全部、持っている物全部、売り払ってしまう方法。
その時は、いふくんとの思い出まで売ってしまうような
気がしてできなかった。
けど、今は。
海外に逃げて、再度認識した。
いふくんが、
僕にとって、どれだけ大事な存在だったかを。
どれだけ、支えてくれていたのかを。
もう、過去だって捨て去ってもいい。
また、いふくんとの未来を作っていけばいいから。
だから、もう一度、
いふくんに、会いたいんだ。
そう思った日から僕は、逃げるのを辞めた。
ちゃんと、向き合おうと、東京に帰ろうと決意した。
そう思えるまで、5年もかかってしまったけど。
一緒に過ごしたあの空間が、蘇ってくる。
少し大きな扉に鍵を差し込む。
僕らが同棲していた家に、やっと
帰ってきた。
だけど、
そこに彼は、いなかった。
少し暗い病室。
いふくんが、横たわる隣でそっと息をする。
近所の人、いふくんの知り合いなんかに聞いた。
いふくんは、自ら車の波に突っ込んで行ったらしい。
死には至らなかったそうだけど、今は植物状態。
回復の見込みもほとんどないと医師から言われた。
いふくんに対しても、自分に対してもそう思う。
なんで、助けてあげられなかったんだろう。
なんで、傷つけてしまったんだろう。
こんなに、大切な人を。
失ってから気づくという言葉が
本当だなんて知りたくなかった。
その時だった。
病室のドアが開いた。
話してみると彼は、いふくんの大学の同期らしい。
「アニキって呼んで」
と言ってくれ、とても気さくだった。
僕は、いふくんの恋人であることを明かした。
だけど、
アニキは気持ち悪がったり、からかったりしなかった。
それから僕は、いふくんとの思い出や出会った時の
こと、いふくんの好きなところなんかを話した。
アニキは笑顔で、優しく頷いてくれた。
そして、アニキからはいふくんの大学時代のことを
たくさん聞かせてもらった。
知らない一面が知れて新鮮な気持ちになれる。
いふくんのことを話していると、時間はあっという間に過ぎていった。
温かく微笑む姿に、少しドキッとする。
軽く頭を下げ、椅子からそっと腰を上げようとする。
しかし、
無言で、服の裾を掴まれる。
アニキの顔をそっと覗き込む。
その時だった。
唇を、奪われた。
💙side
死のうとしたのに、死ねなかった。
体は動かず、声も出ない。
だけど、意識はある。
誰にも意識があることを伝えられない。
目は開かないまま、音だけが聞こえる。
そんな中、
アニキと、ほとけの声がする。
生きていた、
また、戻ってきてくれたことに
泣けない体で泣きそうになる。
ほとけは、アニキに対しても俺の話ばかりしていた。
恥ずかしくてむずむずする。
ずっと、ほとけの声を聞いていたい。
なんて思っていたら、だんだんと眠くなってきた。
この体は動いていない割にすごく疲れる。
久々に、幸せな気持ちで眠りについた。
意識が戻ったときには、だいぶ時間がたっていた。
なんて思っていると、
アニキの声が聞こえてきた。
キスをする音と共に、
ほとけの恥ずかしがる声が漏れていた。
今すぐにでも、ほとけを取り返したかったのに
体は動かなかった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。