USJ襲撃事件の時から、いやその前から。
なら、私が雄英高校に身を隠そうとしていた今までの期間もジッパーには推測がついていたという訳だ。
誰かにとっては何でもない日々が、
私にとっては陽だまりの様で、
手を伸ばされれば縋るように受け取る日々が、
全て、
ジッパーの掌の上で見られていた事になる。
死柄木弔の口元がニマリと笑った。
足元が覚束無い私は足に力を入れて、壁に片手を当てて沿うように立ち上がる。
(もし、この手を取ってしまえば、どうなるのだろう…?)
一瞬、私の頭にそんな事が過ぎる。
『誰かに左右される事なく、思いのまま暮らせる』とは、それは『自由に生きる』という事なのだろうか。
ここでその手を取れば、ジッパーの恐怖から1-Aの皆を、雄英高校の先生や生徒を、守れるのかも知れない。
(それに…)
一度で良いから、
ほんの数瞬でもいいから、
本物の『自由』に触れて、
生きてみたい。
死柄木 弔の方に身体を向けて、地面を真っ直ぐに見下ろす。
彼は私の数歩先で足を止めると、ボロボロの痛々しいような手を私に黙って差し出す。
『ブワァッ』
突風が私にぶつかり、左頭部の顬辺りの髪が風に翻る。
視界の端に壇上のスポットライトの逆光で、真っ黒の巨体が私に覆いかぶさろうとしていた。
『ガシッッ!!』
(いつの間にっ…それに早すぎて気づかなかっ)
私の二の腕を掴んでも余る程の大きさの手で、私をグンッと持ち上げると、ヘロインは片足で大きく軸足を取る。
『ミシミシミシッ、バキッ』
骨が潰される様な音ともに痛みが私を襲い、
そして圧力に耐えられなくなった腕が悲鳴を上げた。
ヘロインの笑った口から歯の原型も留めていない様な異物が見えた。
確かに笑っていた。
『ガッシャァァアンッッ!!!!』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。