第225話

ジッパーの掌の上
9,312
2020/01/12 10:36
USJ襲撃事件の時から、いやその前から。

なら、私が雄英高校に身を隠そうとしていた今までの期間もジッパーには推測がついていたという訳だ。




誰かにとっては何でもない日々が、


私にとっては陽だまりの様で、

手を伸ばされれば縋るように受け取る日々が、





全て、





ジッパーの掌の上で見られていた事になる。
あなた

っ…

死柄木 弔
おい、勘違いすんな。俺がアイツと組んだ覚えはない。アイツが勝手にそう思ってるだけだ。
あなた

どういう…事…?

死柄木 弔
俺と一緒に来い、木奥 あなた。俺の元ならお前は誰かに左右されること無く、思いのまま暮らせる。
死柄木弔の口元がニマリと笑った。
足元が覚束無い私は足に力を入れて、壁に片手を当てて沿うように立ち上がる。
あなた

わ、たしは…


(もし、この手を取ってしまえば、どうなるのだろう…?)


一瞬、私の頭にそんな事が過ぎる。

『誰かに左右される事なく、思いのまま暮らせる』とは、それは『自由に生きる』という事なのだろうか。

ここでその手を取れば、ジッパーの恐怖から1-Aの皆を、雄英高校の先生や生徒を、守れるのかも知れない。



(それに…)



一度で良いから、


ほんの数瞬でもいいから、


本物の『自由』に触れて、




生きてみたい。
あなた

死柄木 弔
どうする、木奥 あなた。
死柄木 弔の方に身体を向けて、地面を真っ直ぐに見下ろす。
彼は私の数歩先で足を止めると、ボロボロの痛々しいような手を私に黙って差し出す。
あなた

わた、しは

『ブワァッ』

突風が私にぶつかり、左頭部の顬辺りの髪が風に翻る。
視界の端に壇上のスポットライトの逆光で、真っ黒の巨体が私に覆いかぶさろうとしていた。

『ガシッッ!!』
あなた

っ!!!


(いつの間にっ…それに早すぎて気づかなかっ)


私の二の腕を掴んでも余る程の大きさの手で、私をグンッと持ち上げると、ヘロインは片足で大きく軸足を取る。



『ミシミシミシッ、バキッ』
あなた

あ"ぁぁぁあ"あ"あ"っ!!!

骨が潰される様な音ともに痛みが私を襲い、

そして圧力に耐えられなくなった腕が悲鳴を上げた。
あなた

ヘロインの笑った口から歯の原型も留めていない様な異物が見えた。



確かに笑っていた。





『ガッシャァァアンッッ!!!!』
死柄木 弔
おいおい、俺はまだアイツと話してたんだぞ…少しは待つことも出来ねぇのかよ………なぁ?

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