数分のうちに、雨風は強くなり、波は荒れだした
洞窟の奥にいるから濡れることはないけど、冷たい風のせいで体温が低くなっていくのを感じる
学校から帰ってからすぐにここに来たから上着も傘も持ってるはずがなく
不思議と、死ぬのが怖くなかった
逆に、このままいけばもう他の人に迷惑をかけなくて済むんだって
『さようなら』
瀬戸が、いる?
…あったかい。瀬戸の匂いは何故か安心できる
泣き止んだはずなのに、また涙が…
ぽんっ
瀬戸が来てくれた安心感で…僕は子供みたいに声を出して泣いた
その間、瀬戸はずっと僕の頭を撫でていてくれた
泣いているうちに、雨雲は通り過ぎていったらしい
随分長い時間洞窟にいたらしい、空には沢山の星が輝いていた
説明するのちょっと…恥ずかしいし…さっきあんなに泣いたばっかだから余計に…
…はぁ、さらりとこういうこと言える瀬戸…ずるいよなぁ
普通のことも瀬戸が言うとかっこよく聞こえるし、
いい言葉が欲しいんじゃなくて、瀬戸の言葉が欲しいんだなって思える
…あ
あ、違う!
やばいテンパって何言ってるのか自分でも分かんない
…っ…いや…
くっそ…瀬戸のやろう…どうしても僕に言わせる気でしょ…じゃないとこんな潔く退くはずがないもん…
何言えば諦めるか考えていると…
お母さんは僕に走り寄ると力いっぱい抱きしめてきた
お母さんの顔をよく見ると、目が赤くなってるのが見えた
そう言って優しく僕の頭を撫でてくれる
いつも通り、優しい笑顔で
スタスタスタ
でも最後の瀬戸の真っ赤な顔が見れたからいっか
もう姿が見えない″あいつ″に向かって言ってから、僕の意識はゆっくり夢の中に引き込まれていった
「月が綺麗ですね」
〜I love you〜
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!