うっすら目を開けると見える兄様の表情。
集中している時の癖が出てる。
グッと眉間に寄せられたしわに加え
いつもよりキツめのメイク、
兄弟じゃなかったら泣くかもしれない。
兄様は誰がどう見てもお母様似だ。
成長するにつれてどんどんそっくりになるが、
最近その判別がつきにくいのは
彼の表情のせいだろう。
お母様がしないようなその険しい表情は、
元々の美しさに
それを上回る冷淡さを加えている。
"兄様顔怖いよ" なんてからかったら
もっと怖くなるだろうから言わないけど…
ブラシにインクを取りながら
ちらりと時計を見やった兄様は、
「あと10分か」と呟く。
再び彼が顔に手を添えてきたところで目を閉じるが、
暫く待っても肌に冷たい筆先が触れてこなかった。
"目" とだけ聞かれて一瞬何のことか戸惑い、
しかしすぐにその意味を理解する。
あまり納得がいっていない様子で
兄様は「ふーん…」と答えた。
兄様がメイクを施していない方の目に
すっと手をかざしてきて、
恐る恐る鏡を見ると
左目にかけていた色変えの魔法が解けた。
いつ見ても気味が悪い、
赤くて、ひび割れた、悪魔みたいな瞳。
私は思わず鏡から顔を背けた。
生まれた時からなぜか左目だけこの状態で、
どんな魔法医術を施しても治らなかった。
右は皆と同じ普通の瞳なのに、
左は充血して亀裂が入ったような瞳。
病気だとか呪いだとか散々言われたし、
昔はよく気色悪がられた。
色変えの魔法を使って生活してからは、
周りにも知られず特に不便もしていないが…
"ハロウィンだから今日ぐらいは"
それは最初、もちろん私もちょっとは考えた。
でも鏡でまじまじと見て結局それをやめたのは、
ジョングクの反応が怖いからだ。
ジョングクが私を傷つけるようなことを
言うはずがないのもよく分かっているし、
彼の優しくて誠実なところを信頼している。
しかしそれでも恐ろしいんだ、
私はその信頼を何度も裏切られてきた。
反応を伺うように顔を上げると
ガッと乱暴に両頬を掴まれて、
兄様は深いため息と共にメイクを再開する。
また冷たいインクが顔に触れて
私は不満いっぱいに彼を見上げた。
「家族以外じゃそうとは限らない」
その言葉を塞ぐように、
兄様は私の唇にそっと人差し指を押し当てた。
彼は静かに筆を置いて手鏡をこちらに寄こす。
映りこんだ自分の顔は酷く不安げで、
しかし兄様が施した金色のメイクは
華やかで美しかった。
兄様と同じマスカレードマスクの模様、
兄様とは違うひび割れた赤い左目。
兄様は白い布で手を拭いながら
「さ、もう行くよ」と立ち上がった。
…たまにこの人はこうやって、
すっごく優しい顔をする時がある。
それこそお母様みたいに。
先に部屋を出ようとした兄様の背中に
顔を伏せたままギュッと抱き着く。
彼は体をこちらに向け直し、頭の上に手を置いた。
ふと部屋のすみの姿見に視線を移すと、
今のこの状況のせいか
本当に兄様がナイトみたいに見えた。
無愛想だし、忠誠心とかまったくなさそうだけど、
でも似合っているのは確かだ。
テヒョンアもセンスがいい。
一瞬だけ表情を弛めて微笑んだレアなジン兄様を、
私は運悪く鏡越しでしか見れなかった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。