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第6話

魔法が解ける3秒前
4
2026/05/07 13:40 更新
鏡の中 見慣れない私が笑う
流行りのリップに 少し痛いヒール
君の「好み」をパズルのように組み合わせて
本当の私を 奥の方へ押しやった

「その髪型、似合ってるね」
たった一言の報酬(ごほうび)のために
嫌いなタバコの匂いも 退屈な趣味の話も
全部「大好き」って 飲み込んできたんだよ



愛されたくて 必死に塗り固めた
私は 君が作った最高傑作(ドール)
爪の先まで 君の色に染まれば
いつかは「運命」になれると信じてた
だけど 努力じゃ埋められない距離が
夜の隙間から 溢れ出していく

通知を待つだけの 静かなスマートフォンの画面
返信の内容を 何時間も推敲して
嫌われないように 重くないように
心のバランスを 必死に保っていた

君の隣で 息を吸うたびに
肺の奥が 少しずつ苦しくなる
これだけ頑張ったんだから もういいよね?
そんな期待が 一番の毒だった

愛されたくて 全部を差し出した
私は 君にとっての都合いい背景(バックグラウンド)
「いい子だね」って 撫でられたその手さえ
本当の私には 一度も触れていない
どれだけ磨いても 光らない石ころを
君は最初から 見てさえいなかった



メイクを落とせば ひどく疲れた顔
あんなに欲しかった 「特別」の二文字は
努力の量じゃ 買えないチケットだった

愛されなかった ただそれだけのこと
世界が壊れるような 音が聞こえた
ボロボロになった 偽物の自分を脱ぎ捨てて
真っ暗な部屋で 一人で泣く夜明け
もう二度と 誰かのために笑わない
そう決めたのに まだ胸が痛いよ

魔法は解けた 
鏡の中には 空っぽの私が
ただ、立っているだけ

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