第7話

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2025/10/10 14:18 更新
鳴子 章吉
あなたの下の名前....あなたの下の名前!大丈夫か?ついたで!海や!
鳴子に声をかけられて、やっと目的地に着いたと気づいた。
あなた
あ...うん、引いてくれてありがとね。
鳴子 章吉
なんや、元気ないなぁ、海やで海!もっとはしゃぎいな!
あなた
はしゃげるわけないじゃん!負けた後なんよこっちは!
鳴子 章吉
カッカッカーそんなん一旦忘れや!チャリ置いてちょっと歩こか!
そう言って、鳴子は堤防に自転車を置いてスタスタ砂浜の方は歩き出してしまった。
あなたの下の名前もそれにつられるように自転車を置き、鳴子の後をついて歩き出した。
歩き出したはいいものの、足の疲労が思ったよりきてたらしく、砂浜を少し歩いたところであなたの下の名前はぺたんと座り込んだ。
あなた
ごめん、鳴子、ちょっとここ景色いいけこっから海見とくわー。
いまできる精一杯の見栄を張った。
鳴子はピタッと足を止めて振り返り、そーかそーか、ほんならワイもこっから景色見るわ!と言って隣に座り込んだ。
季節は秋で肌寒い。
けど、熱った体には心地よい風が吹いていた。
鳴子 章吉
風が、気持ちええな。
そうじゃね、と一言返した。
鳴子 章吉
今日はありがとうな。ワイのわがままに付き合うてもろて。
あなた
えー、全然いいよー、全力で走れたもん
鳴子 章吉
それにしてもあれやな、あなたの下の名前。ロードレーサー乗るのは久々やゆうとったけど、なーんか隠れてやっとったやろ?
ギクッとした。確かに乗るのは久々。それは合ってる。
鳴子 章吉
どう考えても、なんもしてないヤツの走りとちゃうかったで!
横から鳴子にじーっと見られている。下から覗き込んだり、真正面から見てみたり、めっちゃ探られとる。
なにも悪いことしてないのに、変な汗が出てきた。
あなた
や、うん、ちょっとだけな?基礎練的な?やっとったかもやけど...毎日...
押しに押されて、ぽろっと口から出てしまった。
あなた
まぁ、全然相手にならんかったけどねー。心がポッキリ折れた感じがしたねー。もう鳴子とは同じ土俵に立ってないんだなーって。当たり前なんじゃけどね!
鳴子は黙って話を聞いている。
あなた
けど、分かったことはあるんよ。
こっからなんだなって!もう一回立ち直るチャンスを、鳴子はくれたんじゃないかなーって思うんよ。
わたしの勝手な思いかもしれんけど。
あなた
一回折れて、プライドも壊れて、立ち直って、それが成長。そうなんかなって。
ずっと黙って聞いていた鳴子が口を開いた。
鳴子 章吉
せやなー。
鳴子は砂浜に寝転んで空を見た。
鳴子 章吉
ワイも最近、大阪に帰った時にホームグランドで盛大に負けてもーて、凹んどったんやけど、あなたの下の名前の言う通りや。ワイもそう思う。
それからグッと拳を空に突き上げて、
鳴子 章吉
こっからや、こっから這い上がろやあなたの下の名前。
と言った。
そっか、そうゆうことかぁ。鳴子はそれを言うために、励ますために誘ってくれたんじゃ。そこで初めて鳴子の思いに気づいた。
山で勝負することが目的じゃなくて、わたしの事を思って誘ってくれたんだ。それに気づくと急に心が熱くなった。
あなた
鳴子が...わたしの事気にかけてくれとって、嬉しいなっていま思った。
ありがとねと鳴子の顔を覗き込んで言うと、鳴子はちょっと頬を染めながらそっぽを向いて、そうゆうのええねん、ワイが勝手にやっとんやからと返してきた。
そういえば!と言いながら鳴子はガバッと起き上がった。背中には砂がたくさんついている。
あなた
ちょ、鳴子、急に起き上がったら砂散る!目、目痛い!
それでも鳴子は構わずに続ける。
鳴子 章吉
そういえば、や!あなたの下の名前今年のインターハイ見にこーへんかったやろ!なんでや!ワイの晴れ舞台やで!来年は絶対見にきてや!
鳴子 章吉
ワイはギャラリーが多ければ多いほど力になんねん!特にあなたの下の名前!お前の応援が聞きたいねん!絶対インターハイメンバーに入ったる!そしたら来年は応援にきてや!
ビシーっと指差しながら言ってくる。
鳴子の物凄い勢いに呆気に取られる。
あなた
う、うん。わかった、来年はいく。絶対。
鳴子 章吉
うおおおお!絶対やで!俄然やる気出てきたわ!
鳴子は大喜びだ。わたしが応援に行くって言っただけなのに。
それを見とると、わたしもだんだん元気になってきた。
あなた
鳴子見とると、なんか元気になってきたわ!
約束、絶対見に行くと言って、あなたの下の名前は鳴子に拳を突き出した。
鳴子 章吉
約束や。
鳴子も拳を出してあなたの下の名前の出した拳にコツっと当てた。
あなた
その代わり、勝ってよ!
付き合わせた拳を鳴子の方へ押した。
鳴子 章吉
あったりまえや!ワイのド派手なレースをよう見ときや!ワイがカッコ良すぎて惚れるかもな!
鳴子は、海を見てカッカッカーと笑って、ほなそろそろ帰ろかーと言って歩き始めた。
なんだそれ、と思いながらあなたの下の名前も後を追って歩き出した。

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