彼——改め圧紘さんに静かにしてもらい、プロヒーローに相棒を向ける。
おっと、そっちの名前しか知らないの?
偽造名義なんだけど……まぁ、いいか。
それだけ私の技術がある、ということにしよう。
足元からのその問いかけに、肩をすくめる。
どうなのだろうか。
これは共犯?
否、一方的な手助けである。
しかし、本当のことをアイツに言う必要はない。
プロヒーローが少しだけ声を大きくして告げてくる。
どうして?
どうしてそんなことをしなきゃあいけないの?
そう思いながら、そっと相棒を下ろした。
——これは、拒絶ではない。
選択だ。
私は、私が選んで、決めた方向へ歩く。
冷たい風が音を立てる上空で、圧紘さんの手を引いて、プロヒーローに背を向ける。
少し歩いて、プロヒーローの気配が無くなったところで、圧紘さんが口を開いた。
その名前に、少し引っかかる。
そう返せば、圧紘さんはハッハッハ、だなんて、昔と変わらない張りのある笑い声を出す。
その笑いの端には、何を考えているのか分からないような冷たさを僅かに感じた。
変わらない、呼び名。
トランクケースを持ち直しながらそう言うと、圧紘さんは小さく喉を鳴らした。
その仕草さえ、どこか計算高く、いつ牙を出すか分からない獣のようだった。
圧紘さんはそれだけ言って、夜空を見上げた。
そんな横顔を見て、圧紘さんの手を握り直す。
手袋越しの手は、昔と変わらず大きくて、どこか落ち着く手である。
ゆっくりと地上に降りて、路地に身を潜めた。
困惑の声が二つ、路地に響いた。
そう問えば、少し離れた圧紘さんの影が僅かに揺れる。
そんな風にいつも通りの飄々とした声で言われて、胸の奥がざわつく。
潜む者としては、少し声が大きかったかもしれない。
真っ直ぐ見つめた圧紘さんの影がまた揺れて、大きくなる。
すぐ目の前でそう言う声がして、頭に優しく触れられる。
そのまま少し笑みを浮かべ、圧紘さんは小さく頷いた。
それから、久しぶりに人との日常が始まった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!