圧紘さんとの日常が始まって数週間、穴の空いた天井から朝日が差し込む廃倉庫の中で、トランクケースを広げて、相棒のメンテナンスをする。
埃にまみれた空気が、朝日に当てられ輝いていて、どこか幻想的にも見えた。
いつも通り、そっとパーツを分解して、異常がないか確認して、油を差して、また元の形に組み上げる。
隣で見ていた圧紘さんに言われる。
幼い頃の私には、こんなイメージはなかったのか。
そんなことを思いながら、トランクケースからパーカーを取り出す。
昼間に普段の格好をしていると逆に目立つから、上にオーバーサイズのパーカーを羽織る。
相棒を入れているケースが見えないようにして、髪型も普段の三つ編みハーフアップから一つ結びに変えて、キャップを被る。
これで、よほど注視しなければ私だとはわからない。
圧紘さんにそう言われて、少し照れ臭くなる。
そんなことを話しながら、トランクケースを閉じようとしたところで、圧紘さんが中身を覗く。
圧紘さんが指さしたのは、隅に置かれた焦げ跡の残るリボン。
そう、これは私が幼い頃に圧紘さんからもらった物である。
今はもう、使えないんです。
そう言って短くなったリボンをそっと撫でてから、トランクケースを閉じる。
そう言ってトランクケースを持ち上げたところで引き止められる。
トランクケースを指してそう言われて、たしかに少し邪魔だからなぁ、と考える。
厚意に甘えて差し出せば、ぽん、と空色のビー玉サイズに小さくなった。
そう言って、スラックスのポケットにビー玉を突っ込む。
普段から持っているはずのトランクケースが軽くなっただけのはずだが、なぜか圧紘さんの温かさと重なる。
そばにいるような感覚に、ほんの少しだけ胸が緩んだ。
昼間の街は油断できない。
人混みに紛れ込んだつもりでも、プロヒーローに目を付けられれば、こちらが捕まる可能性がある。
それでも、毎日をやり過ごすしかないのだ。
この世界で生きるためには。
そう思いながら、廃倉庫を後にした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!