仕事を終えて、圧紘さんに連絡をする。
どうやら近くの百貨店にいるようで、その中で落ち合うことになった。
百貨店の中に入り、少し歩いたところで、圧紘さんから声をかけられた。
手をひらひらと振る圧紘さんも、街に馴染むような格好をしている。
そんな会話をした後、興味もない店を少しだけふらふらとしてから、外へ出る。
外はすっかり日が暮れて、少し冷たい夜風が吹いていた。
今朝の廃倉庫に戻り、お互いに普段の格好へ戻ろうとする。
パーカーを脱いで、髪を解いたところで、圧紘さんが近くに寄る。
街には馴染まないであろうが、普段通りの姿が、わずかに入る月光に照らされて、怪しげに輝いていた。
ショーでステージに立っているときのような張りのある声でそう言うとともに、私の両掌に箱が置かれる。
そう訊くと、開けてごらんよ、と返されて、恐る恐る箱を開いた。
中身は、白い大きなリボンのついたバレッタ。
どこか、あの焦げたリボンに似た雰囲気を感じた。
圧紘さんは肩をすくめて、もちろん、と笑った。
その言葉に、胸の奥でふんわりとした温かさが広がる。
箱の中から手に取って、よく見てみる。
真っ白で、綺麗で、純粋で、嬉しい。
あの、焦げたリボンと同じだ。
物や形は違えども、この感情は変わらなかった。
お礼を言うと、圧紘さんは、いやいや、と言って少し離れた。
何かをがさがさしているのをみていれば、唐突に顔を上げた。
少し戸惑いつつも頷けば、圧紘さんは私を適当な場所に座らせて、手袋を外した。
するすると器用な手が髪を滑らせる感覚が、どこか懐かしく感じた。
昔も、こんな風にして髪を結んでもらったっけ。
子供のときにした、やりとり。
ええっと、確か、この後は、
少し吹き込む冷たい夜風に靡く髪を、圧紘さんが丁寧にまとめていく。
三つ編みにする手つきは滑らかで、流石マジシャンといったところだろうか。
かれこれ九年ほどこの髪型にしている私よりも素早く、綺麗に髪を整えてくれる。
やがて髪をまとめ終えると、私の掌からそっとバレッタをとった。
パチンッ
音を立ててつけられる。
鏡がないから見えないが、きっと綺麗になっているのだろう。
少し照れくさくて、控えめに訊いてみる。
昔、あのリボンをくれたときと同じような、優しい顔。
変わらないその顔をみて、すごく、安心した。
褒めてくれているのが、よくわかった。
バレッタにそっと手を触れる。
あの焦げたリボンと同じ気持ちが、形を変えてここにあるようだった。
圧紘さんのその声で、リボンに触れる手を止めて、トランクケースに荷物をしまった。
視界に映ったあのリボンにも手を触れて、変わらない安心感を感じた。
廃倉庫を後にするその瞬間から、背中が冷えるような感覚がするけれど、今日は違った。
バレッタが背中を守ってくれているようだから。
その安心感に身を任せて、また圧紘さんとの逃避行を再開した。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。