第9話

第八話:白いリボン
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2026/03/07 11:00 更新
仕事を終えて、圧紘さんに連絡をする。
どうやら近くの百貨店にいるようで、その中で落ち合うことになった。

百貨店の中に入り、少し歩いたところで、圧紘さんから声をかけられた。
迫圧紘
おつかれさまー
手をひらひらと振る圧紘さんも、街に馴染むような格好をしている。
あなた
お疲れ様です
あなた
お待たせしてすみません
そんな会話をした後、興味もない店を少しだけふらふらとしてから、外へ出る。

外はすっかり日が暮れて、少し冷たい夜風が吹いていた。

今朝の廃倉庫に戻り、お互いに普段の格好へ戻ろうとする。

パーカーを脱いで、髪を解いたところで、圧紘さんが近くに寄る。

街には馴染まないであろうが、普段通りの姿が、わずかに入る月光に照らされて、怪しげに輝いていた。
迫圧紘
サプラ〜イズ!
ショーでステージに立っているときのような張りのある声でそう言うとともに、私の両掌に箱が置かれる。
あなた
な、なんですか?
そう訊くと、開けてごらんよ、と返されて、恐る恐る箱を開いた。

中身は、白い大きなリボンのついたバレッタ。
どこか、あの焦げたリボンに似た雰囲気を感じた。
あなた
くれる……ってことですか?
圧紘さんは肩をすくめて、もちろん、と笑った。
迫圧紘
たまたま見かけてねぇ
迫圧紘
あなたの下の名前(本名)|デフォ名:歩ちゃんに似合うかと思ったんだ
その言葉に、胸の奥でふんわりとした温かさが広がる。
箱の中から手に取って、よく見てみる。

真っ白で、綺麗で、純粋で、嬉しい。

あの、焦げたリボンと同じだ。
物や形は違えども、この感情は変わらなかった。
あなた
ありがとうございます……!
お礼を言うと、圧紘さんは、いやいや、と言って少し離れた。
何かをがさがさしているのをみていれば、唐突に顔を上げた。
迫圧紘
お、そうだあなたの下の名前(本名)|デフォ名:歩ちゃん、せっかくだし髪結ばせてくれよ
少し戸惑いつつも頷けば、圧紘さんは私を適当な場所に座らせて、手袋を外した。
するすると器用な手が髪を滑らせる感覚が、どこか懐かしく感じた。

昔も、こんな風にして髪を結んでもらったっけ。
迫圧紘
今日はどうされますか、お嬢さん?
子供のときにした、やりとり。
ええっと、確か、この後は、
あなた
いつもの……で
迫圧紘
ラジャ
少し吹き込む冷たい夜風に靡く髪を、圧紘さんが丁寧にまとめていく。
三つ編みにする手つきは滑らかで、流石マジシャンといったところだろうか。
かれこれ九年ほどこの髪型にしている私よりも素早く、綺麗に髪を整えてくれる。

やがて髪をまとめ終えると、私の掌からそっとバレッタをとった。

パチンッ

音を立ててつけられる。
鏡がないから見えないが、きっと綺麗になっているのだろう。
あなた
圧紘さん、その、似合いますかね?
少し照れくさくて、控えめに訊いてみる。
迫圧紘
うん
迫圧紘
ピッタリだ
昔、あのリボンをくれたときと同じような、優しい顔。
変わらないその顔をみて、すごく、安心した。
褒めてくれているのが、よくわかった。

バレッタにそっと手を触れる。
あの焦げたリボンと同じ気持ちが、形を変えてここにあるようだった。
迫圧紘
さ、そろそろ移動しますかねぇ
圧紘さんのその声で、リボンに触れる手を止めて、トランクケースに荷物をしまった。
視界に映ったあのリボンにも手を触れて、変わらない安心感を感じた。

廃倉庫を後にするその瞬間から、背中が冷えるような感覚がするけれど、今日は違った。
バレッタが背中を守ってくれているようだから。

その安心感に身を任せて、また圧紘さんとの逃避行を再開した。

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