第24話

第二十三話:二度目の来訪
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2026/06/20 11:00 更新
微睡に溺れていたところで、名前も知らない刑務官に声をかけられる。
面会だ
そう言って牢が開かれ、数人に連れられる。
しばらく歩いたところで、別の部屋に入れられた。

少し暗い、閉鎖的な空間。
ただ違ったのは、アクリル板越しに人がいること。
あなた
……本当に来たんだ、イレイザーヘッド
こちらが先に口を開く。
イレイザーヘッドは、返事もせずにただこちらを見ていた。

アクリル板の目の前に置かれたパイプ椅子に腰を降ろして、イレイザーヘッドと向かい合う。
あなた
今度は何?
あなた
もう聞くこともないでしょう?
揶揄うような声でそう言えば、イレイザーヘッドは静かに口を開く。
イレイザーヘッド
足立あなたの下の名前(本名)|デフォ名:歩、あんたの話を聞きに来た
足立あなたの下の名前(本名)|デフォ名:歩。
あなたの名字(偽名)|デフォ名:佐藤あなたの下の名前(偽名)|デフォ名:凛じゃない、私の、本当の名前。
あなた
いまさら?
鼻で笑って、続ける。
あなた
聞いてどうするのさ
あなた
あ、危ない敵の思想を世間に晒すとか?
あなた
いいねぇそれ、ドキュメンタリーっぽい
イレイザーヘッド
違う
即答だった
あなた
……じゃあ何? 説得でもしに来たの?
言葉は軽くしているのに、どこかから苛立ちが溢れそうになる。
イレイザーヘッド
……無理に話せとは言わん
イレイザーヘッド
ただ、あんたが何を考えているか、知りたかった
そんなことを言われて、心底苛立ったと同時に、コイツが何を思っているのか理解した。
コイツの中で、私はこちら側の世界しか知らないように見えている。
敵と敵の間に生まれて、敵として生きることしか知らない、哀れで可哀想な女の子。

私は、そんなんじゃないのに。
あなた
それは正義として?
あなた
それとも秩序のため?
イレイザーヘッドは小さく首を振った。
イレイザーヘッド
……俺個人だ
その一言に、思わず笑いが溢れた。
あなた
あっはは!
あなた
おっかしいよアンタ
あなた
それと、勘違いしてる
笑う私を見つめながら、イレイザーヘッドは表情一つ変えていない。
あなた
私は私の意思でこの生き方をしているの
あなた
別に、そっち側の生き方を知らなかったわけじゃない
あなた
知った上で、敵みたいなことやってんの
そう言った瞬間、イレイザーヘッドは少しだけ目を見開いたように見えた。
思っていることを当てられたが故か、私の述べた事実が故か。
そんなことはどうだっていい。
あなた
……これでもまだ、私に救いの手を伸ばしたいなら、一つ聞いてくれよ
そう言って、私はアクリル板越しにイレイザーヘッドを見た。
挑発でも懇願でもない、ただの事実確認のような声音だったと思う。
イレイザーヘッド
…………なんだ
少し長い沈黙からの、了承。
あなた
難しいのは分かってるさ、だから真剣に聞き入れてくれなくていい
そんな前置きをして、言葉を続ける。
あなた
私の荷物、返してよ
あなた
別に全部じゃなくていい
あなた
検査でもなんでもしてくれてかまわないからさ
言ってしまってから、少しだけ笑った。
自分でも可笑しいと思ったからだ。
世界を壊したとか、正義がどうとか、そんな話の後で出てくる願いが、あまりにも小さくて、個人的で、どうしようもなく人間臭い。

普通ならここで“釈放してくれ”だとか言うだろう。
でも、私はこれしか出ない。
これが、私の全部だったから。
私は、私の全部を守るために、壊すことに加勢したのだ。

だから、私から出るのは、これだけ。
イレイザーヘッド
……それだけか?
あなた
うん、これだけ
即答すると、イレイザーヘッドはわずかに眉を寄せた。
疑念というより、理解しかねている、という表情だった。
イレイザーヘッド
もっと、あるだろ
低い声で、そう言う。
イレイザーヘッド
条件の改善とか、待遇とか……自分の将来についてとか……
私は肩をすくめた。
あなた
あると思う?
乾いた笑いが漏れる。
あなた
私は別に、この待遇に文句はないよ
あなた
将来に関しても、別に興味はないね
イレイザーヘッドは黙ったまま、こちらを見ている。
その視線は、敵を見るものでも、哀れむものでもなかった。
ただ、計測するような、重たい沈黙。
あなた
……白いバレッタと、焦げた白いリボン
改めて、口にする。
あなた
たぶん、押収品の中にあるでしょ?
アクリル板に映る自分の顔は、思ったより穏やかだった。
泣いてもいないし、怒ってもいない。
ただ、妙に静かだ。
イレイザーヘッド
……簡単に言うな
イレイザーヘッドが、低く言った。
あなた
だからさっき言ったでしょ
あなた
真剣に聞き入れなくていいって
彼は、しばらく黙ってから、椅子に深く腰掛け直した。
その動作一つで、場の空気が変わる。
イレイザーヘッド
検査は必要だ
あなた
構わない
イレイザーヘッド
返却できない可能性もある
あなた
それも、仕方ない
即答すると、彼はわずかに目を細めた。
あなた
それが返ってくるなら——私は、ここでも私でいられる
再び、沈黙。
今度は、重いだけじゃない。
どこか、思考の音が混じっている沈黙だった。
時間です
背後で、刑務官に声が響く。

イレイザーヘッドは立ち上がる直前、もう一度だけ私を見た。
その視線は、最初よりも少しだけ柔らかい。
イレイザーヘッド
……検討はする
短い一言。
約束でも、拒絶でもない。

私は、それで十分だった。
あなた
ありがと
軽く言うと、彼は何も返さず背を向けた。

白いバレッタと、焦げた白いリボン。
それが戻ってくるかどうかなんて、まだ分からない。

でも——
“欲しい”と言えたことだけは、確かだった。

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