視界の端に倒れた圧紘さんが見えて、薄れゆく意識の中、めいっぱい足に力を込めて立ち上がる。
地面を踏む。
その一歩一歩が、死を近くに招いているようにも感じられた。
それでも、足は止められない。
止めたくない。
止めるのは、私の背骨に反する。
私はコイツらの正義に縛られない。
こんな、背骨のない正義には、絶対に。
意識を失って横たわる圧紘さんの隣へ。
この人はまだ、死なせちゃいけない。
私に背骨をくれた、娯楽をくれた、外の世界をくれた人。
この人がここで死ぬくらいなら、私が死んでもいいと思える人。
乱れる呼吸も、ドロドロの服も、異常に跳ねる心臓も、脇腹に空いた風穴も。
何もかもが気にならなかった。
ただ、圧紘さんの命があればと。
そう思った。
返事はない。
たどり着いた瞬間、そのまま隣に倒れ込みそうになる。
それでも、まだヒーローは向かって来る。
来ないでくれよ。
ここで、こんなところで、死ぬわけには行かないんだ。
火事場の馬鹿力、とでも言えばいいのだろうか。
ギリギリで持ち堪えて、ヒーローに相棒を向ける。
残弾は、一発だけ。
腕も、もう保たない。
外したら、ほんとうのおしまいだ。
血液なのかも汗なのかも涙なのかも分からない、何かに揺れる視界で狙いを定めて、指を握り込む。
——パァン
軽い音が響く。
それでも、ヒーローは止まらなかった。
絶対に当たったと思ったのに、弾丸はヒーローの体をすり抜けていった。
真っ直ぐ、思い描いていた弾道から一切ずれずに。
すり抜けていった。
ああ、透過するタイプの“個性”か。
透過するヒーローに殴られて、そのまま倒れ込む。
もう、立ち上がる体力は残っていなかった。
地面に伏せることしかできない。
せめて、圧紘さんの隣に。
いくらそう思っても、体が動かない。
動けよ。
足だけが取り柄だろ。
どれだけ願ったところで、もうダメだった。
ここで死ぬのかな。
最後に圧紘さんにお礼を言いたかったな。
そんなことを思いながら、後ろ頭につけたバレッタを外す。
白い大きなリボンのバレッタ。
真っ白で、綺麗で、純粋で、嬉しいもの。
圧紘さんからもらった、新しい宝物。
触れるだけで、見ているだけで、安心できるもの。
左手で、握り込む。
火傷の跡が、痛むような気がした。
ははっ、おかしい。
初めも終わりもこれなんて。
外の世界は、なかなかどうして皮肉的だ。
そこで、意識が途切れた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。