第20話

第十九話:知らない場所
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2026/05/23 11:00 更新
——ピッ……ピッ……

どこかで、規則的な電子音が鳴っている。

目を開くと、視界にトラバーチンの天井と薄緑のカーテンが映った。
あなた
……
少しして、この場が病院である可能性に気づく。

——スゥ

少し大きく息を吸うと、胸の奥が痛む。
ああそうだ、私は、大怪我をしたんだっけ。
……それで、プロヒーローに捕まったのか、とぼんやり考える。

意識を失う前のことを思い出そうとするけど、まだふわりふわりとしていて、何が何だか、わからなかった。

——シャッ

薄緑のカーテンが引かれる音。
視界の端に照明が当たって、眩しさに目を細める。

その向こうには、白衣を着た男が立っている。
顔はよく見えないし、年齢もわからない。
たぶん、医者だ。
ちゃんとした、医者。
……気が付きましたか?
穏やかで、落ち着いた声。
仕事としての、距離感がある。
きっと、本当は私みたいな敵と呼ばれる存在の治療なんて、したくないのだろう。

一度、瞬きをして、頷く。
あなた
……まぁ
掠れた声。
それが、意識のなかった時間を告げてくるようだった。

医者はそれを確認すると、手元のボードに何かを書き込む。
ガリガリとペンが紙を擦る音がする。

書き込みを終えたのか、医者はボードを脇に挟んで、一歩だけこちらへ近づいた。
無理に動こうとしないでくださいね
私の脚や腕に視線を落として言う医者に合わせて、そちらを見る。
包帯が巻かれていて、その上から機械を付けられていた。
拘束具、というよりは、“個性”を抑える機械だろうか。

それから、脇腹にも何やら機械がつけられている。
こんなことをするくらいなら、殺してくれたっていいのにね。

なんて柄にもないことを考えて、すぐにやめる。

医者はそれ以上こちらへは踏み込まず、モニターと点滴に視線を移した。
意識ははっきりしてきましたね
ここがどこかは分かりますか?
あなた
…………病院、でしょ?
本物の病院なんて行ったことないのだから、少し疑問符をつけてみる。
自分の声が、少し遠く聞こえた。
そうです
医者は短く肯定して、話を続ける。
あなたは先の戦いで重傷を負い、ここへ搬送されました
今は治療と経過観察の最中です
それだけ言って、医者はこちらの反応を待つ。

問い詰める様子も、責める様子もない。
ただ、状態を確認するための視線。

私は一度だけ、ゆっくり瞬きをした。
あなた
そう
あなた
…………ありがとう
命を救われた以上、望んでいなくとも礼は言うのが正解か。
僅かに仕事としての背骨を感じた医者に向かって、小さく礼を述べる。

それを聞いて、医者は小さく頷いた。
いえ、今は休んでください
後ほどまた別の者が来ます
別の者。

その言葉に、胸の奥がわずかにざわつく。

医者はそれ以上何も言わず、踵を返す。
白衣の裾が揺れて、再び——

——シャッ

薄緑のカーテンが、元の位置に戻った。

規則的な電子音だけが、また、この空間を満たす。
その妙な居心地の悪さに呆れて、静かに目を閉じた。

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