第80話

絶望の足枷
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2026/05/18 11:09 更新
「ッ……もう十分やろが、ツム」












治くんの低く、苛立ちを孕んだ声が響いた。








侑くんの腕の中にいた私の体は、次の瞬間、強引に治くんの腕の中へと引きずり込まれる。












「っ……、治くん……?」











「目ぇ閉じとけ」












大きな掌が私の顔を覆い、強制的に暗闇が落ちてくる。









何も見えない恐怖の中、治くんは私の視界を塞いだまま、冷徹に言い放った。













「俺があなたちゃんを連れてく。お前は音駒の頭の相手しとけ」












「はぁ!? 待てやサム! 自分だけええ格好すんなや!!」













侑くんの怒号が背後で弾ける。








けれど、治くんはその声を無視して私を軽々と横抱きに抱え上げ、迷いなく地を蹴った。















「お前はやりすぎや。音駒の頭さんの攻撃でも受けて反省せい。お前なら死なんやろが」
















その言葉と同時に、背後の空気が爆発するように跳ねた。











私が盾にされていたせいで、今まで一歩も動けなかったクロ。その枷が、治くんが私を連れ去ったことで、ようやく外れたのだ。












(あぁ……私が、いなくなったから……)












皮肉な事実が、冷たく胸に突き刺さる。















助けてほしくて、会いたくて、死ぬ気でここまで走ってきた。









なのに、私がその場にいること自体が、クロを殺しかけていた。私という「弱点」が消えて初めて、クロはようやく全力で怒りを叩きつけられる。















(私が行っても、また盾にされるだけ。……私は、クロの足手纏いでしかないんだ)















そう理解した瞬間、心の底から真っ黒な絶望がせり上がってきた。












愛する人が命を懸けて戦っているのに、私はその場にいるべきではない。私の存在そのものが、大好きな家族を縛る呪いになっている。













「行かせねぇ……ッ!! お嬢を、返せ!!」














背後で激しい打撃音と、クロの猛り狂う咆哮が響く。











今すぐ駆け戻ってその背中に縋りつきたい。







けれど、もし私が戻れば、またあの冷たい銃口がクロの眉間を狙うだろう。














「……クロ……っ、ごめん……ごめんなさい……っ」













治くんの胸元に顔を埋め、溢れ出す涙と一緒に、掠れた謝罪を繰り返すことしかできない。









抵抗する気力すら湧かず、ただ治くんの腕の中で震える私を、彼の掌はずっと外の世界から遮断するように覆い被さっていた。
















「……もう、見んでええからな」















治くんの規則正しい心音だけが、絶望に沈む私の耳に虚しく響いていた。
クロを戦場に独り残し、私は二度と戻れない闇の奥へと引き摺られていった。

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