この日、世界に激震が走った。
" 天災 "級モンスターである" 暴風竜 "ヴェルドラの消滅が確認されたのだ。
ヴェルドラ。特S階級のモンスター。
魔物のランクも、冒険者のそれと同じようにA~Fの六段階評価で表される。
やや強い" + "と、やや弱いもしくは、準級という意味の" - "評価がつく場合もある。
これは" 異世界人 "と噂される自由組合の頂点、" 自由組合総帥 "の称号を持つ神楽坂優樹という男が、新たに策定したクラス分けであった。
今までの駆け出し→初心者→中級者→上級者の四段階評価よりもわかりやすく、ウケがいい。
特Sクラスとは、A評価を上回る魔王指定クラスであるSランク、その更に上の" 天災 "もしくは" 災厄 "級の魔物の事である。
A~Fの六段階評価の枠組みから外れる、規格外の存在。
本来、Aランクの魔物でさえ、国家存続の危機に陥る場合すらある恐るべき脅威なのだ。
その絶望的なまでの危険度が窺えるだろう。
三百年前に封印されていたとはいえ、そこは天災級のモンスター。
消滅と見せかけて、別の地方で新たな脅威として再誕していないとも限らない。
しかし、消滅の報告より二十日が経過するに至って、西方聖教会が" 暴風竜 "ヴェルドラの完全消滅を宣言したのである。
ジュラの大森林の周辺には、数多の小国が存在する。
ヴェルドラが消滅したという報告がもたらされると、各国は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
各々の国の王や大臣達は、連日緊急の会議を行い、今後の対策と情報収集を行っていく。
小国ブルムンドの大臣である、ベルヤード男爵もそんな一人であった。
そして、ベルヤード男爵に呼ばれた男もまた、未曾有の混乱の中に生きる者の一人。
名をフューズ。背は低いが、油断ならない目つきをした男である。
その役職は、小国であるブルムンド王国の自由組合支部長であり、この国でも重要な役割を担う人物なのだ。
聞いていて当然、そういう態度を崩さずに、ベルヤード男爵は、部屋に入ったばかりのフューズに問いかけてきた。
フューズは、言葉少なに肯定した。低いしわがれた声で。
ベルヤード男爵は、鼻を鳴らして吐き捨てるように言葉を続ける。
フューズは、淡々と応える。
ベルヤード男爵が何を怒っているのかわからない、とでもいいたげに。
ベルヤード男爵はその態度を不快に思いながらも、それを表に出さないように言葉を続ける。
もっとも、その努力は全く成功しているとは言い難かったが……。
事実である。
自由組合とは、国家の枠に縛られぬ組合の事である。
国ごとに所属する国家所属の職人に比べて、生活の保障はされていない。しかし、国民に準ずる最低限の身分の保障はされている。故に、一定の割合で税の義務だけは課せられているのだ。
こうした仕組みはこの国だけの話ではなく、この周囲の国家のほぼ全てで共通である。逆に考えるならば、自由組合とは国家の枠組みを超えた組織であり、一国家を上回る組織力を持つという事になるのだが……。
偶然か意図的なのか不明だが、国家の下に潜り込むように活動を行っているのが実情なのだ。
ギルドマスターの白々しい言い草を聞いて、ベルヤード男爵の額に青筋が浮かんだ。
明らかに、足元を見られている事を悟ったのだ。
ギルドマスターはやれやれとため息をつき、
ブルムンド王国王国の人口は百万人。
そこに所属する組合員は七千人程度。家族は含まれていない。
国家と自由組合の協定に基づく動員が発令された場合、自由組合所属の一定の人数(この場合、七百人程度)が国家の指揮下に入ることになる。
これは当然だが、国家ごとの組合所属の人数であり、他国の組合員には適用されない。その為、自由組合とはいえ、所属国家は明確にされているのだ。
また、この協定が発令されている期間を国家が定める事が出来るのだが、その期間中は納めるべき税を二割減となるように取り決められている。
強制力を持つが、税収として考えるならば乱用は出来ない仕組みなのだ。もっとも、徴収される組合員の給料を立て替える必要のある組合としては、当然の取り決めなのであるが。
仮に、全員を徴収と言われたとしても、対応は不可能である。
組合員の半数は、非戦闘員なのだから。
王国としても、その事はよく弁えている。
その為、本来であれば無理強いはしないのだが……、今回はそういう場合ではなかった。
魔物が活発化する。確かに、それは大きな理由である。
だが、本当の理由があった。それは……。
フューズは、ベルヤード男爵が自分の名前を呼んだ事に軽く驚く。
そして、初めてベルヤード男爵の顔をまともに見据えた。
フューズは、ベルヤード男爵の顔を見やって思う。
くたびれた顔になったなこいつ……、と。
無理もないのだろうが、ベルヤード男爵はここ数日で一気に老け込んだように見えた。
二人は、実は幼馴染みであった。
男爵とはいえ、貴族と懇意にしている事が公になるのは色々と都合が悪い。
お互いがお互いを利用していると思わせる関係を築く必要があった為、普段は仲が悪そうに演じているのだ。
こんな小国だけで、この難局を乗り切る事は出来ないだろう。
だが、取り越し苦労という事も有り得る。
確かに帝国に動きはあるが、まだ攻めて来ると決まった訳ではない。
魔物だけならば、まだ対策の立てようはあるのだ。
そう、まだ帝国が動くと決まった訳ではない。
仮に動くとしても、いや、動くならば大規模な軍事行動となる。
小競り合いを仕掛けに動くほど、帝国は甘くない。百万を越える軍勢で、周辺国家を悉く蹂躙するだろう。だとすれば、準備に時間がかかるはず。少なくとも三年は……。
それでも時間が多いとは言えないが、こちらにも準備する余裕が生まれる。
二人は頷きあい、そして別れる。
すべき事は山程あるのだ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。