第2話

序章 死亡~そして転生
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2026/03/19 14:24 更新
 タヒの描写あり
 苦手な人はUターン
 何ということもない普通の人生。
 大学を出て一応大手と言われるゼネコンに入社し、現在兄と二人暮らしの三十四歳。彼女はいない。
 年の離れたもう一人の兄が両親を養っており、僕たちは気ままな独身貴族という訳だ。
 身長も低い訳ではなく、顔も悪い訳ではない。だけどモテない。彼女を作ろうと努力したこともあったが、三回告白してフラれた時点で心が折れた。まあ、この年になると彼女がどうのこうのというのは正直面倒くさい。
 仕事が忙しいというのもあるが、別にいなくて困るというものでもないし。
 ……言い訳してるのではないよ?
 なぜそんなことを考えていたかというと―――
田村
先輩たち。お待たせしました!
 笑顔で僕らに向かって歩いてくる、爽やかな青年。そして、その横に並ぶ美人さん。僕たちの後輩の田村と、会社のマドンナと名高い、受付の沢渡さんである。
 そう、今日はこの人たちに、結婚するから相談に乗ってくれと頼まれたのだ。つい、何故自分はモテないのか、などと考えてしまった理由である。で、仕事帰りに待ち合わせの交差点脇に二人で、電柱にもたれてつらつらともの思いにふけっていたという訳だ。
リムル&夢主
おう。
三上 悟
で、相談ってなんだ?
 僕たちは沢渡さんに目礼しながら質問する。
沢渡美穂
どうも初めまして、沢渡美穂みほです。いつもお見かけしてますが、話すのは初めてですね。なんだか緊張します
 緊張してるのは僕たちの方だっての!
 そもそも僕たちは、人と話すのが苦手なのだ。
 察しろって……などと、内心でボヤく僕。
 大体、どう見ても恋愛に縁のなさそうな僕らに持ってくる相談ではない。絶対に当て付けだろうと思う。恐らく、間違いないだろう。
リムル&夢主
ども。
三上 悟
三上悟みかみさとるです。緊張なんてしなくても大丈夫ですよ。沢渡さんは会社で有名だから、紹介されなくても知ってますよ。
あなた
三上あなたの下の名前です。田村とはたまたま同じ大学でして、会社の研修会で意気投合しましてね。それ以来の付き合いなんです
沢渡美穂
有名ってなんですか!なんか、変な噂でも流れてるんですか?
三上 悟
ええ。木原きはら部長と浮気してるとか、亀山かめやま君とデートしてたとかね
 兄ちゃんはこういうところがあるからな……。兄ちゃんからしてみれば軽いジョークのつもりだったのだが、沢渡さん、顔を真っ赤にしながら涙目になってしまって。これは、可愛いわ。
 兄ちゃんのジョークはデリカシーに欠けるしセンスもないから、絶対にやめておけとよく言われるんだけど、ついつい言ってしまうと言っていた。
 やっぱり、今回も失敗。兄ちゃん性格悪いな。
 田村が沢渡さんの方を叩きながら取り成してる。
 くそ、田村め!こういう状況はまさに、リア充爆発しろ!って叫ぶ場面だな。
田村
先輩、それくらいにして下さいよ!美穂もからかわれてるだけだって
 笑いながら取り成す田村。できた後輩だ。
 嫌味がなくて爽やかで、憎めないやつだ。
 田村はまだ二十八歳で、兄ちゃんとはだいぶ年も離れてるのに、何故かこの三人は馬があった。
三上 悟
すまんな、性格が悪いもんでね。まあ、ここで話すのもなんだし、場所を変えて飯でも食いながら話聞くわ
 妬んでても仕方ない。そう思って兄ちゃんが移動しようと声をかけたとき……。
モブ女
キャーーーーーーーーーー!!!!!!!!
モブ男
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
 悲鳴。混乱。
 なに?何が起きてる!?
モブ男
どけ!殺すぞ!!
 その声に振り向くと、包丁と鞄を持った男が走ってくるのが見えた。
 悲鳴が聞こえる。男が向かってくる。手には包丁。包丁?その切っ先には……。
三上 悟
田村ぁーーーーーー
 兄ちゃんが田村を突き飛ばした瞬間、兄ちゃんが……刺された。兄ちゃんはその場に崩れ落ちるようにうずくまった。
 何が起きたのか理解できない。動きたくても動けない。
あなた
に、兄ちゃん!!!!!
あなた
兄ちゃん……兄ちゃん……
モブ男
うるせえ!!黙れ!この野郎!!!!
 その時、背中に焼けるような痛みが走った。僕は兄ちゃんに覆い被さるようにうずくまり、背中の痛みに耐える。
モブ男
邪魔すんなーーーー
 叫びながら逃げていく男を眺めて、田村と沢渡さんの無事を確認する。
 田村が、声にならない叫び声を上げながら駆け寄ってきた。
 沢渡さんは突然の事態に茫然自失になっているようだが、怪我はなさそう。
 それにしても、背中が熱い。痛いとかそんな感覚通り越して、背中が熱い。
 なんだこれ?熱すぎる……勘弁してよ……。
大賢者
《確認しました。『対熱耐性』獲得……成功しました》
 もしかして……刺されちゃった?
 刺されて死ぬとかないわぁ……。
 まあ、兄ちゃんに先逝かれて一人残されるよりいいか……。
大賢者
《確認しました。『刺突耐性』獲得……成功しました。続けて、『物理攻撃耐性』獲得……成功しました》
田村
先輩、血、血が出て……止まらないんですぅ
 なんだ、うるさいな。田村か。変な声が聞こえた気がしたが、田村ならしょーがない。
 血?そりゃ、出るよ。僕だって人間だ。刺されたら血ぐらい出る!
 だけど、痛いのはやだな……。
大賢者
《確認しました。『痛覚無効』獲得……成功しました》
 えっと……やばい。僕も痛みと焦りで意識が混乱しているみたい。
リムル&夢主
た、田村……ウルサイぞ。
三上 悟
た、大したことないだろ?
あなた
心配すんな……
田村
先輩、血、血が……
 真っ青な顔で泣きじゃくりそうな顔をして、僕たちを抱えようとする田村。男前が台無しだな。
 沢渡さんの様子を見ようとしたが、視界が霞んでよく見えない。
 背中の暑さが感じられなくなり、代わりに猛烈な寒気が僕を襲った。
 やばい、な……。人は血液が足りないと死ぬんだっけか。
大賢者
《確認しました。血液が不要な身体を作成します……成功しました》
あなた
(ちょ、お前、さっきからなんて言ってるんだ?よく聞き取れない……)
 声を出そうとして、出なかった。やばい。本当に僕、死ぬかも……。
 てか、だんだん熱さも痛みも感じなくなってきた。
 寒いのだ。寒くてどうしようもない。何て事だ……寒さで凍えるとか、僕も忙しいな。
大賢者
《確認しました。『耐寒耐性』獲得……成功しました。『対熱耐性』『耐寒耐性』を獲得したことにより、『熱変動耐性』にスキルが進化しました》
 そんなことを思っているとき、急に大きな声がした。
三上 悟
田村ぁーー!!万が一、万が一だが、俺が死んだら……俺のPCを頼む。風呂に沈めて、電気流して、データを完全に消去してやってくれ……
 兄ちゃんは、最後の気力を振り絞って、心残りであった最重要事項を伝えた。
 風呂に沈めて電気流すって……何やってるんだよ……。
大賢者
《確認しました。『電流耐性』獲得……成功しました。付属して、『麻痺耐性』獲得……成功しました》
 田村は一瞬何を言われたのかわからなかったのか、きょとんとした顔をした。
 その後意味を理解した様子で、苦笑いを浮かべる。
田村
ははっ、先輩らしいですね――
 男の泣き顔なんて見たくないしな。苦笑いでも、泣き顔よりかはマシだ。
田村
俺、本当は、沢渡の事、先輩たちに自慢したくて……
 そうだろうと思ったよ……。全く、この野郎は。
三上 悟
チッ……。
リムル&夢主
たく。全部許してやるから、彼女の事、幸せにしてやれよ
三上 悟
PC頼んだぞ……
 最後の力で、それだけを伝えた。
 何という事もない普通の人生。
 大学を出て一応大手と言われるゼネコンに入社し、現在二人暮らしの三十四歳。彼女はいない。
 年の離れたもうひとりの兄が両親を養っており、僕たちは気ままな独身貴族だった。
 お陰で、童貞。
 まさか、未使用のままであの世に旅立つことになるとは……僕の息子も泣いてるだろう。
 ごめんな、お前を大人にしてやれなくて……。
 次生まれ変わることが出来たら、ガンガン攻めよう。声かけまくって、喰いまくるぞ……。ってそれ駄目か。
大賢者
《確認しました。ユニークスキル『捕食者』を獲得……成功しました》
 そして四十歳目前……とまではいかないけど僕なんて、三十歳童貞で魔法使いならもうすぐ賢者だったのに……大賢者も夢じゃない。いや、流石にそこまではどうかと思うけど。
大賢者
《確認しました。エクストラスキル『賢者』を獲得……成功しました。続けて、エクストラスキル『賢者』をユニークスキル『大賢者』に進化させます……成功しました》

 ……って、さっきからなんだ?何が《ユニークスキル『大賢者』》だ。舐めてるのか?
 全然ユニークなんかじゃねーよ!
 笑えないよ、こっちは!
 本当に失礼な……。
 そんなことを考えながら、僕は眠りについた。


 これが死ぬってことか……思ったほど寂しくないな。来世も兄ちゃんと兄弟がいいな。


 それが、俺がこの世で思った最後の言葉だった。

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