第3話

第一章 初めての友達
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2025/12/30 23:25 更新
 暗い。
 真っ暗で何も見えない。
 ここはどこ?てか、どうなった。
 確か、賢者だ大賢者だと馬鹿にされたよーな……。
 そこで、僕の意識は覚醒した。
 僕の名前は、三上あなたの下の名前。
 路上で後輩を、通り魔らしき奴から庇って刺された兄ちゃんを見てパニックになっていたら刺されたんだった。
 よし、覚えてる。大丈夫、まだ慌てる時間じゃない。
 大体、僕が慌てたことなんて、小学生の頃漏らしたときぐらいのものだ。何とは言わないが……。
 回りを見回そうとして、気付く。目が開けられない。
 まいったなと、頭をかこうとして……手が反応しない。それ以前にどこに頭があるのだろう。
 混乱する。
 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。
 時間をくれ。落ち着くから。こういうときは素数を数えるといいんだっけ?
 一、二、三、ダァーーー!!
 違う。そうじゃない。そもそも、一は素数ではないんだっけ?
 いやいや、それもどうでもいい。
 そんな馬鹿な事を言っている場合ではない、ヤバイんじゃない?
 あれ?ちょ、どうなってんだこれ!?
 もしかして……ひょっとすると、既に慌てないと駄目な時間なんじゃない?
 僕は焦って、どこか痛む所はないか確認する。
 痛みはない。快適だ。
 寒さも暑さも感じない。実に居心地のいい空間にいるようだ。
 その事に少しだけ安心する。
 次に、手足を確認。指先どころか、手も足も反応はなかった……。
 どういう事?
 刺されただけで、手や、足がなくなるハズないし、どうなってる?
 そもそも、目が開けられない。
 何も見えない、真っ暗な空間にいるのだ。
 僕の心に、かつて感じた事もないものすごい不安が押し寄せてきた。
 これは……意識不明状態になった、とか?
 実際には意識だけはあるが、神経が切断されて動けないとか?
 いやいや、勘弁してくれ!
 考えて見て欲しい。
 人は、暗闇に閉じ込められるとあっという間に発狂するという。今の僕はまさにその状態であり、更には、自分で死ぬこともできない。
 このまま狂うだけなど、絶望するなという方が不可能だろう。
 その時、サワリッと、身体に触れる感触があった。
 ん?なんだろう……?
 僕の感覚が全て、その感触に意識を集中する。
 腰?の横の辺りを撫でるように、草らしきものが触れていた。
 その辺りに意識を集中すると、自分の身体の範囲がおぼろげながらに理解できた。たまに、葉の先っちょが自分の身体にツンツンと刺さる感触がある。
 僕はちょっと嬉しくなった。
 未だ、真っ暗な中にいる。しかし、五感の内の触覚だけでも感じることができたから。
 面白くなって、その草に向かおうとすると――

 ズルリ。

 這いずるように、自分の身体が動くのがわかった。
 動いた……だと!?
 この時、はっきりと、自分が病院のベッドの上にはいないと判明した。自分の腹?の下の感触が、ゴツゴツとした岩のような形状をしていると感じたからだ。
 なるほど……全然わからんけど、どうやら病院にはいないみたい。
 その上、目も耳も機能していない。
 どこが頭かわからないが、草に向けて移動する。接触している部分に意識を向ける。
 匂いは全く感じない。恐らく、嗅覚もないのか?
 というか、自分の身体の形状がわからない。
 認めたくないが、流線型のぷよぷよした、あの"モンスター"のような形状をしているような。
 そういう気が、先程から脳裏をかすめている。
 いやいや……そんなハズないさ。いくらなんでも、そんなハズ……。
 取り敢えず、その不安は置いておく。
 僕は、人間の五感の内、試していない最後の一つを試してみることにした。
 しかし、口がどこにあるのかわからない。どうしよう?
大賢者
《ユニークスキル『捕食者』を使用しますか? YES/NO 》
 突然、僕の脳裏に声が響いた。
 は?何、何だって?ユニークスキル『捕食者』……だって?
 てか、この声はなに?
 田村との会話の最中にも変な声が聞こえていたような気がしたが、気のせいじゃなかったのか?
 誰かいるのか?だが、違和感はある。これは、誰かいるというより……心に言葉が浮かび出ているだけという感じ。
 人の意思を感じない、パソコンの自動音声のような無機質な感じと言えばいいのか。
 取り敢えず、NO!だ。
 反応はない。暫く待ったが、声を感じることはなかった。
 どうやら、二度目の問いかけはないようだ。選択を間違ったか?これは、YE Sを選択するまで同じ質問を続けてくるのかと思っていたのだが、違ったっぽい。
 声をかけて質問だけしてその後放置とは、本当に失礼なヤツである。
 声が聞こえて、実はちょっと嬉しかったのに。
 僕は少しだけ後悔した。
 まあ、仕方ない。さっきやりかけていた、味覚を試そう。
 先程の草に向けて身体を動かす。
 草に触れている部分の感触を確かめながら、草にのしかかった。草を覆うように、身体で感触を確かめる。やはり、これは草で間違いなさそうだ。
 僕が草の感触をを確かめていると、草と僕の身体の接触部分が溶け出した。僕の身体が溶けたのかと焦ったが、どうやら溶けたのは草だけのようだ。
 そして、身体の中に溶けた草の成分が取り込まれるのが理解出来た。
 どうやら、草を溶かして取り込んだようだ。つまり、僕の身体は口ではなく、接触部分で草を取り込めるのだ。ちなみに、味は全く感じなかった。
 これはつまり、そういう事のようだ。
 どうやら、僕は人間ではなくなっている。これはほぼ間違いない。
 という事は、やっぱり刺されて死んじゃったのか?
 疑問というより、ほぼ確信しているのだが。それなら、今病院ではなく、岩場のような草の生えた所にいる事にも納得がいく。
 田村はどうなった?
 沢渡さんは?
 兄ちゃんは?
 疑問は尽きない。しかし、最早悩んでも仕方ないのかもしれない。今後どうするか考えないと。
 となると、やっぱり今の僕の形態――
 さっきの感触からして……。
 僕は改めて、自分の身体に意識を向ける。

 ぷよん。ぷよん。

 リズミカルに動く自分の身体。
 真っ暗闇の中で、自分の身体の境界がどこなのか時間をかけて確かめた。
 何という事でしょう!
 あんなに格好良くて男らしかったのに、今ではこんなに流線的な洗練されたスタイルに!
 って、アホか!認められるかぁー!!
 身体の境界を感じる限り、どう考えても、ヤツを連想してしまう。
 いやいや、だって、ねえ?
 嫌いじゃないよ?うん。かわいいと思えることもあるさ!
 でもさ、自分がなりたいか?と聞かれれば、九割の人は心を同じにしてくれるだろう。
 だが、認めるしかないのかもしれない……。
 どうやら僕の"魂"は、異なる世界で生まれた魔物に生まれ変わったのだ、と。
 本来あり得ないような、天文学的確率なのかもしれないけれど……。
 僕は、スライムに転生してしまったのだ。

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