この傷について何か聞かれたことも、
関わる内容の話題を口にした事も一度も無かった彼が、
私の身体に薄らと残った傷を指先で掠めるようになぞる。
その言葉に思わず顔を上げた私は、彼の視線を捉えた。
但しそれは、いつものように圧を含んだものではなく、
私を憐れんでいるような視線だった。
(な、に…)
彼は僅かな嘲笑を口元に乗せ、私の傷を見下ろしながら話し続ける。
気がつけば言葉となって、口から出ていた。
ふつふつと何かが湧き上がってきている。
____何も知らないくせに。
_____何も、見ていないのに。
そうだ、この人は何も知らない。
私の額にいつもキスを落としてくれるし、
私を大事だと言ってくれる。
私に " 躾 " の為に怒ってくれるし、
ご飯だって貰える。
彼は鋭い眼差しを身体の無数の傷跡から私の顔に向けて、静かに言い放つ。
(勘、違…い………?)
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
いきなり頭を鈍器で殴られ、意識が遠くなっていった感覚が私を支配した。
脳内が真っ白になって、何も無くなった。
手先や足先が静かに冷たさを持ち始める。
『ッ…』
息が詰まる音がした。
だが、私の身体が上手く酸素を取り込めずに藻掻くことはなく、
ただただ目を見開いて、呆然としているだけだった。
また一つため息を吐いて、彼は私から視線を外した。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。