第55話

何も知らないくせに
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2021/05/11 10:36
あなた
…!

この傷について何か聞かれたことも、

関わる内容の話題を口にした事も一度も無かった彼が、
オーバーホール
オーバーホール
それにしても、いつ見ても酷い傷だな。

私の身体に薄らと残った傷を指先で掠めるようになぞる。
オーバーホール
オーバーホール
フッ、
あなた
オーバーホール
オーバーホール
あれが本当にお前の父親か?

その言葉に思わず顔を上げた私は、彼の視線を捉えた。


但しそれは、いつものように圧を含んだものではなく、

私を憐れんでいるような視線だった。


(な、に…)
あなた
そ、そうです。
オーバーホール
オーバーホール
そうか。だが、父親は『僕に娘は居ない』と言ってたぞ。
あなた
…っ、

彼は僅かな嘲笑を口元に乗せ、私の傷を見下ろしながら話し続ける。
オーバーホール
オーバーホール
それにお前のことを『アカネ』と呼んでいたな。凡そ元妻か元交際相手の名前だろう。正気とは思えん。
あなた
オーバーホール
オーバーホール
大した親御さんだ。
あなた
………ぁ、……分か……ですか
オーバーホール
オーバーホール
あなた
貴方に何が分かるんですか。


気がつけば言葉となって、口から出ていた。

ふつふつと何かが湧き上がってきている。




____何も知らないくせに。


_____何も、見ていないのに。



あなた
お、『お父さん』はちゃんと ・  ・  ・  ・私を愛してくれています。『お父さん』はちゃんと ・  ・  ・   ・私を大切にしてくれてます。『お父さん』はちゃんと ・  ・  ・  ・私を叱って…



そうだ、この人は何も知らない。




私の額にいつもキスを落としてくれるし、

私を大事だと言ってくれる。


私に " 躾 " の為に怒ってくれるし、

ご飯だって貰える。






オーバーホール
オーバーホール
 それを愛情だと思ってるのか?
だったら、それは




彼は鋭い眼差しを身体の無数の傷跡から私の顔に向けて、静かに言い放つ。





オーバーホール
オーバーホール
勘違い・   ・  ・だ。





(勘、違…い………?)


一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。

いきなり頭を鈍器で殴られ、意識が遠くなっていった感覚が私を支配した。
オーバーホール
オーバーホール
お前のここ数日間を見ていたが、一向に現実を見ようとしなかったな。
そんなお前に教えてやる。


脳内が真っ白になって、何も無くなった。

手先や足先が静かに冷たさを持ち始める。

オーバーホール
オーバーホール
お前の身体のそれは愛情の証じゃない。
単なる暴力を受けた痕でしかない。

『ッ…』


息が詰まる音がした。


だが、私の身体が上手く酸素を取り込めずに藻掻くことはなく、

ただただ目を見開いて、呆然としているだけだった。

オーバーホール
オーバーホール
はぁ…

また一つため息を吐いて、彼は私から視線を外した。



オーバーホール
オーバーホール
育児放棄  ネグレクトや虐待を受けている子どもが何故、自己申告をして助けを求めて来ないと思う?

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