彼はボールペンを軽く弾くと、手の上でくるくると回し始めた。
微かにボールペンのプラスチックの部品同士が衝突する音を鳴らす。
彼の声とその音だけが部屋に響いていた。
彼は一度も瞳を揺らさなかった。
ただし、私を見ることはなく、淡々と言葉を紡いでいるだけだった。
『ビクッ、!』
大きな声が私の肩を震えさせた。
『カチャンッ』
彼は丸椅子の金具を鳴らしながら立ち上がると、私に背を向けた。
私の視界にはクルクルと座面が回っているだけで、誰も座っていないグレーの丸椅子があるだけだった。
瞬きも忘れ、息をするのも忘れ…
ただただ突如狭まった喉に通る気管に息苦しさを感じて、軽く唇を噛んだ。
目尻の縁から生温い何かが滲み出て来る。
____私だって。
普通の生活をしたかった。
普通の女の子になりたかった。
叶うなら普通の子どもになりたかった。
個性があって、
お母さんとお父さんに囲まれて、
温かい家庭で大人になりたかった。
だけど、
あるのは父親モドキの研究者の元交際相手の代用品であり続ける生活だけ。
執拗に身体を弄られる生活だけ。
『勘違い』?
どっちが『勘違い』してるの。
望んでそう在りたいと思った事は1度たりともないのに。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。