第56話

私だって
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2021/05/18 03:00
オーバーホール
オーバーホール
育児放棄  ネグレクトや虐待を受けている子どもが何故、自己申告をして助けを求めて来ないと思う?

彼はボールペンを軽く弾くと、手の上でくるくると回し始めた。
オーバーホール
オーバーホール
肉体的健康よりも精神的健康を優先させるからだ。子どもは無視されることよりも、自ら暴力を受ける側を選ぶ。
それはどんな形であっても、親に触れているという確信があるからだ。
あなた
___

微かにボールペンのプラスチックの部品同士が衝突する音を鳴らす。

彼の声とその音だけが部屋に響いていた。
オーバーホール
オーバーホール
その確信が『愛されている』という勘違い ・  ・  ・を生み、判断を狂わせる。

彼は一度も瞳を揺らさなかった。

ただし、私を見ることはなく、淡々と言葉を紡いでいるだけだった。
オーバーホール
オーバーホール
お前はその典型的な罠に嵌った___
あなた
 ち、違う、
オーバーホール
オーバーホール
…何だ。
あなた
ちがう…違う!違う違う違う、『お父さん』はちゃんと・   ・  ・  ・私を愛して_____
オーバーホール
オーバーホール
何も違わない!

『ビクッ、!』

大きな声が私の肩を震えさせた。
オーバーホール
オーバーホール
現に今もお前の言葉には何の説得力もない。
それになんだ、『ちゃんと ・ ・ ・ ・』って。
" 自分は愛されている " と、自分に思い込ませたいだけだろう。
あなた
…っ!
オーバーホール
オーバーホール
いつまでも妄想を見続けるのはやめろ。
他者から与えられただけの場所に縋るな。
お前はもう幼児 ガキじゃない。
自分の居場所ぐらい掴み取ってから俺に意見しろ。
あなた
…、
オーバーホール
オーバーホール
話は終わりだ。着ろ。

『カチャンッ』

彼は丸椅子の金具を鳴らしながら立ち上がると、私に背を向けた。
あなた

私の視界にはクルクルと座面が回っているだけで、誰も座っていないグレーの丸椅子があるだけだった。


瞬きも忘れ、息をするのも忘れ…

ただただ突如狭まった喉に通る気管に息苦しさを感じて、軽く唇を噛んだ。


目尻の縁から生温い何かが滲み出て来る。





あなた
私だって




____私だって。




普通の生活をしたかった。

普通の女の子になりたかった。




オーバーホール
オーバーホール





叶うなら普通の子どもになりたかった。






個性があって、

お母さんとお父さんに囲まれて、

温かい家庭で大人になりたかった。




だけど、

あるのは父親モドキの研究者の元交際相手の代用品であり続ける生活だけ。

執拗に身体を弄られる生活だけ。



『勘違い』?

どっちが『勘違い』してるの。






望んでそう在りたいと思った事は1度たりともないのに。




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