第30話

銀河鉄道の夜 九 ジョバンニの切符 15
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2022/04/30 11:00 更新
 そのとき、すうっときりがはれかかりました。どこかへ行く街道かいどうらしく小さな電燈でんとう一列いちれつについた通りがありました。それはしばらく線路せんろ沿ってすすんでいました。そして二人ふたりがそのあかしの前を通って行くときは、その小さな豆いろの火はちょうどあいさつでもするようにぽかっとえ、二人ふたりが過ぎて行くときまたくのでした。
 ふりかえって見ると、さっきの十字架じゅうじかはすっかり小さくなってしまい、ほんとうにもうそのままむねにもつるされそうになり、さっきの女の子や青年たちがその前の白いなぎさにまだひざまずいているのか、それともどこか方角ほうがくもわからないその天上へ行ったのか、ぼんやりして見分けられませんでした。
 ジョバンニは、ああ、とふかいきしました。
ジョバンニ
ジョバンニ
カムパネルラ、またぼくたち二人ふたりきりになったねえ、どこまでもどこまでもいっしょに行こう。ぼくはもう、あのさそりのように、ほんとうにみんなのさいわいのためならばぼくのからだなんか百ぺんいてもかまわない
カムパネルラ
カムパネルラ
うん。ぼくだってそうだ
カムパネルラのにはきれいななみだがうかんでいました。
ジョバンニ
ジョバンニ
けれどもほんとうのさいわいはいったいなんだろう
 ジョバンニがいました。
カムパネルラ
カムパネルラ
ぼくわからない
カムパネルラがぼんやりいました。
ジョバンニ
ジョバンニ
ぼくたちしっかりやろうねえ
ジョバンニがむねいっぱい新しい力がくように、ふうといきをしながらいました。
カムパネルラ
カムパネルラ
あ、あすこ石炭袋せきたんぶくろだよ。そらのあなだよ
カムパネルラが少しそっちをけるようにしながら天の川のひととこをゆびさしました。
 ジョバンニはそっちを見て、まるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらなあなが、どおんとあいているのです。そのそこがどれほどふかいか、そのおくに何があるか、いくらをこすってのぞいてもなんにも見えず、ただがしんしんといたむのでした。ジョバンニがいました。
ジョバンニ
ジョバンニ
ぼくもうあんな大きなやみの中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでもぼくたちいっしょにすすんで行こう
カムパネルラ
カムパネルラ
ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんなあつまってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっ、あすこにいるのはぼくのお母さんだよ
 カムパネルラはにわかにまどの遠くに見えるきれいな野原をしてさけびました。
 ジョバンニもそっちを見ましたけれども、そこはぼんやり白くけむっているばかり、どうしてもカムパネルラがったように思われませんでした。
 なんともえずさびしい気がして、ぼんやりそっちを見ていましたら、こうの河岸かわぎしに二本の電信でんしんばしらが、ちょうど両方りょうほうからうでを組んだように赤い腕木うでぎをつらねて立っていました。
ジョバンニ
ジョバンニ
カムパネルラ、ぼくたちいっしょに行こうねえ
ジョバンニがこういながらふりかえって見ましたら、そのいままでカムパネルラのすわっていたせきに、もうカムパネルラの形は見えず、ただ黒いびろうどばかりひかっていました。

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