そのとき、すうっと霧がはれかかりました。どこかへ行く街道らしく小さな電燈の一列についた通りがありました。それはしばらく線路に沿って進んでいました。そして二人がそのあかしの前を通って行くときは、その小さな豆いろの火はちょうどあいさつでもするようにぽかっと消え、二人が過ぎて行くときまた点くのでした。
ふりかえって見ると、さっきの十字架はすっかり小さくなってしまい、ほんとうにもうそのまま胸にもつるされそうになり、さっきの女の子や青年たちがその前の白い渚にまだひざまずいているのか、それともどこか方角もわからないその天上へ行ったのか、ぼんやりして見分けられませんでした。
ジョバンニは、ああ、と深く息しました。
カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました。
ジョバンニが言いました。
カムパネルラがぼんやり言いました。
ジョバンニが胸いっぱい新しい力が湧くように、ふうと息をしながら言いました。
カムパネルラが少しそっちを避けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。
ジョバンニはそっちを見て、まるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔が、どおんとあいているのです。その底がどれほど深いか、その奥に何があるか、いくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えず、ただ眼がしんしんと痛むのでした。ジョバンニが言いました。
カムパネルラはにわかに窓の遠くに見えるきれいな野原を指して叫びました。
ジョバンニもそっちを見ましたけれども、そこはぼんやり白くけむっているばかり、どうしてもカムパネルラが言ったように思われませんでした。
なんとも言えずさびしい気がして、ぼんやりそっちを見ていましたら、向こうの河岸に二本の電信ばしらが、ちょうど両方から腕を組んだように赤い腕木をつらねて立っていました。
ジョバンニがこう言いながらふりかえって見ましたら、そのいままでカムパネルラのすわっていた席に、もうカムパネルラの形は見えず、ただ黒いびろうどばかりひかっていました。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。