kamomeside
…先程まで見えていた光景が頭から離れず、俺はしばらくの間ぽけーっとしてしまう。
はっと気がついて、慌ててぶんぶんと頭を横に振る。
…今日だって、あいつとの約束がある。
なんだか放っておけなくて、気まずそうにしているあいつに「また明日」などと声をかけたのは自分なのだから、行かなくてはならない。
だって、俺は…
…あいつの気持ちに応えてやることは、できない。
ずっとずっと、俺の心はにょきをただ一人。
これまでも、これからも…
その想いを断ち切ることなんて______
俺には、無理だ。
…そらねこには、強く見せているけれど。
実際には、あいつの方が、ずっとずっと芯を持ってるって、俺は知ってる。
俺は、ぎりっと歯を食いしばった。
薄々気づいている。
にょきをへの、この想いは…
もう、叶わないものの、ような。
…あの時、あんなことを言ったが、それは、そらねこを励ますためではなく、俺が、自分にそう言い聞かせるためのものだ。
叶わない、ということ自体も勘でしかない。
こう話しているとどっちもあやふやに見えるが____
…好きな人に好きな人がいる、という時点で、世間一般では"失恋"と呼ぶのだろう。
俺は身支度をし、ガチャリと自分の家のドアを開けた。
いつもの待ち合わせ場所で先に待っていたそらねこが、少し気を遣うように微笑む。
…随分、しっかりしたなあ。
…ずっとずっと、そらちゃんは自分の弟のようなものだと思っていた。
お互い、話すことがなく、しばらく沈黙の時間が流れる。
いつもなら、にょきをがどうだとか言うのが、当たり前の日常だ。
だけど、この状況じゃ、そうもいかないだろう。
そらちゃんが、意を決したように顔を上げて、俺も自然と身構える。
その表情は、とても真剣で______
俺は、ごくりと唾を飲んだ。
…そらねこの言葉は、途切れ途切れで、聞き取りやすいと言えるものではなかったが…
その内容を、容易く理解できてしまう俺は、こいつと過ごした長い年月を実感せざるを得なかった。
…最後の言葉は、はっきり、真剣に。
そう言われた途端、一段と頼もしく、かっこよくその姿が捉えられた気がした。
…けれど、昔から根付いていたこの恋心が消えたわけではない。
今だって、脳裏にちらつくのは、金髪とオッドアイの中性的な男の姿。
しかし、目の前の人物を大切にしたいのも本当で______
俺が、そう告げると…
そらねこの目に、ぱっと光が差し込んでらこくこくと、小さく頷き、
そう言って、にぱ、と笑った。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。