とある人間の国、その中のとある平和な町にて───
ピーンポーン、ピーンポーン、と、入口の自動ドアから、客の来店を知らせる音がなる。
「いらっしゃいませ〜!」
ここは、町外れのとあるコンビニ。今日も、ちょっとしたものを求めて、客がやってくる。
「あら、元気のいい挨拶ねぇ。新人さんかしら?」
「はい、今月から入りました!こちらの、安日樹の姉、亜音子と申します。」
「あら、ご姉弟なのねぇ、素敵じゃないの〜。仲良しなの?」
「はい、僕達、昔はいつでもいっしょにいたぐらいで…。お風呂も一緒に入ってたことありましたよ?」
「あらぁ〜、良いわねぇ〜」
いつもくる、ラベンダー色のセーターを着たおばあさんがニコニコとして言う。そう、彼女らの過去など、何も知らずに。
───中二病の兄貴、中二病の姉貴。
過去───というかほんとはつい数日前まで、彼らはそう呼ばれていた。まあ兄貴の方は数ヶ月前だけど。
箱舟大戦で大荒れの世界情勢。その中を、たった二人で生きてきた二人は、強く望み、そして、力を手に入れた。
だが、その力の矛先は、どんどん、当初の目的、「たったひとりの姉/弟を守りたい」というものから外れてゆき、ついには他の人を傷つけるまでに至っていたのだ。そして、ついこの前、ものすごくすさんだ心を持った人たちに心を正され、彼女たちは、更生することができたのである。ついでに中二病もなんだか治ってしまったらしく、安日樹と亜音子は、六芒星の刻まれた眼帯やらなんやらとは一切、無縁の姿で、今現在、コンビニでバイトをしているのであった。
「懐かしいわね、漆黒の闇とか…。」
「あったあった。姉ちゃんの「漆黒の輪舞曲」とか、あれ、設定凝ってたよね。」
「やめましょう、在りし日の闇が噴出するわ…。」
あれ、もしかしてまだ治ってない?
まあ、中二病なんざ人に迷惑をかけなければ治らなくてもいいのだ別に。むしろネタにもなるし…。
そんなこんなで、発注やらレジ打ちやら、テキパキと真面目に仕事をこなしているうちに、いつの間にか日は暮れていった。店長が、裏の方から声を掛ける。
「あ、安日樹くーん、亜音子さーん、今日はもうシフトあがっていいよ〜、ふたりとも、よく頑張ってくれたから。」
「あ、ありがとうございまーす!!」
一気に二人もあがっちゃって良いのか…まあ良いのか。亜音子と安日樹は、肉まんを、店員特別価格でひとつだけ買って、店を出る。外は、もう暗くなり、ふわふわとした粉雪が舞っていた。
「いや、まさか姉ちゃんに会えるとは思ってなかったわ…ほんとうどこ行ってたの?てかなんであんなところに…。」
「そ、そんなことはもういいのよ。大事なのは貴方が居るってことだけ」
あたたかい姉弟愛。二人は、路上で手を繋ぐ。ちょっとカップルっぽい。
道端のベンチに座ると、亜音子は、肉まんを2つに割った。ほわっと白い湯気がたち、冷たい空気の中にとける。
満ち足りた気分で、二人は、おのおのの肉まんを頬張った。ふいに、安日樹が、亜音子のつやつやの黒髪についた淡雪を、やさしく払う。
「…また、給料が入ったら、今度はもうちょっと豪華なところにご飯食べに行こ。おれのおごりで。」
「あらやだ、おとなになったじゃないの…。でもまだあなた、高校生でしょ?お姉ちゃんが払ってあげるわ。」
「でも、おれ…姉ちゃんに恩返ししたくてさ。ちゃんと帰ってきてくれたし。」
「あらまあ、でも、私たちを、お互いのもとに帰らせてくれたのは、紛れもないあの人たちでしょ?違う?」
「あの人たち…?」
安日樹は、一瞬ピンとこなかったようだが、すぐに、ああ、と声を上げた。そのまま、二人は、何も言わず、雪空を見上げる。
───彼らは、今も、きっとどこかの街で、金を求めているのだろう。あるいは、食べ物を貪っているか。
非常にすさんでいて、不純で、思いやりもない彼らだが、それでも憎めないのはどうしてだろう。わちゃわちゃやっている彼らを想像し、二人の口元は不思議と緩む。
「さ、食べ終わったら早く行きましょ。あら、あなた紙まで食べてるわよ。」
「えっ?!あ、ほんとだ。」
ごみをそのへんのゴミ箱に捨て、安日樹と亜音子は、再び、手を繋いで歩き始めた。
「寒いね、姉ちゃん。」
「寒いわね、安日樹。」
呟けば、声が返ってくるあたたかさ。それは、紛れもなく、あの守銭奴たちが、思い出させてくれたこと。亜音子と安日樹は、その幸せを噛みしめる。
ぽつぽつとつきはじめる街灯。雪の降り始めた寒空の下を、二人は、笑顔で帰っていった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。