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第76話

【番外編.7】彼らのその後
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2026/01/09 09:20 更新
とある人間の国、その中のとある平和な町にて───

ピーンポーン、ピーンポーン、と、入口の自動ドアから、客の来店を知らせる音がなる。

「いらっしゃいませ〜!」

ここは、町外れのとあるコンビニ。今日も、ちょっとしたものを求めて、客がやってくる。

「あら、元気のいい挨拶ねぇ。新人さんかしら?」

「はい、今月から入りました!こちらの、安日樹あにきの姉、亜音子あねこと申します。」

「あら、ご姉弟なのねぇ、素敵じゃないの〜。仲良しなの?」

「はい、僕達、昔はいつでもいっしょにいたぐらいで…。お風呂も一緒に入ってたことありましたよ?」

「あらぁ〜、良いわねぇ〜」

いつもくる、ラベンダー色のセーターを着たおばあさんがニコニコとして言う。そう、彼女らの過去など、何も知らずに。

───中二病の兄貴、中二病の姉貴。

過去───というかほんとはつい数日前まで、彼らはそう呼ばれていた。まあ兄貴の方は数ヶ月前だけど。

箱舟大戦で大荒れの世界情勢。その中を、たった二人で生きてきた二人は、強く望み、そして、力を手に入れた。

だが、その力の矛先は、どんどん、当初の目的、「たったひとりの姉/弟を守りたい」というものから外れてゆき、ついには他の人を傷つけるまでに至っていたのだ。そして、ついこの前、ものすごくすさんだ心を持った人たちに心を正され、彼女たちは、更生することができたのである。ついでに中二病もなんだか治ってしまったらしく、安日樹と亜音子は、六芒星の刻まれた眼帯やらなんやらとは一切、無縁の姿で、今現在、コンビニでバイトをしているのであった。

「懐かしいわね、漆黒の闇とか…。」

「あったあった。姉ちゃんの「漆黒の輪舞曲ロンド」とか、あれ、設定凝ってたよね。」

「やめましょう、在りし日の闇が噴出するわ…。」

あれ、もしかしてまだ治ってない?

まあ、中二病なんざ人に迷惑をかけなければ治らなくてもいいのだ別に。むしろネタにもなるし…。

そんなこんなで、発注やらレジ打ちやら、テキパキと真面目に仕事をこなしているうちに、いつの間にか日は暮れていった。店長が、裏の方から声を掛ける。

「あ、安日樹くーん、亜音子さーん、今日はもうシフトあがっていいよ〜、ふたりとも、よく頑張ってくれたから。」

「あ、ありがとうございまーす!!」

一気に二人もあがっちゃって良いのか…まあ良いのか。亜音子と安日樹は、肉まんを、店員特別価格でひとつだけ買って、店を出る。外は、もう暗くなり、ふわふわとした粉雪が舞っていた。

「いや、まさか姉ちゃんに会えるとは思ってなかったわ…ほんとうどこ行ってたの?てかなんであんなところに…。」

「そ、そんなことはもういいのよ。大事なのは貴方が居るってことだけ」

あたたかい姉弟愛。二人は、路上で手を繋ぐ。ちょっとカップルっぽい。

道端のベンチに座ると、亜音子は、肉まんを2つに割った。ほわっと白い湯気がたち、冷たい空気の中にとける。

満ち足りた気分で、二人は、おのおのの肉まんを頬張った。ふいに、安日樹が、亜音子のつやつやの黒髪についた淡雪を、やさしく払う。

「…また、給料が入ったら、今度はもうちょっと豪華なところにご飯食べに行こ。おれのおごりで。」

「あらやだ、おとなになったじゃないの…。でもまだあなた、高校生でしょ?お姉ちゃんが払ってあげるわ。」

「でも、おれ…姉ちゃんに恩返ししたくてさ。ちゃんと帰ってきてくれたし。」

「あらまあ、でも、私たちを、お互いのもとに帰らせてくれたのは、紛れもないあの人たちでしょ?違う?」

「あの人たち…?」

安日樹は、一瞬ピンとこなかったようだが、すぐに、ああ、と声を上げた。そのまま、二人は、何も言わず、雪空を見上げる。

───彼らは、今も、きっとどこかの街で、金を求めているのだろう。あるいは、食べ物を貪っているか。

非常にすさんでいて、不純で、思いやりもない彼らだが、それでも憎めないのはどうしてだろう。わちゃわちゃやっている彼らを想像し、二人の口元は不思議と緩む。

「さ、食べ終わったら早く行きましょ。あら、あなた紙まで食べてるわよ。」

「えっ?!あ、ほんとだ。」

ごみをそのへんのゴミ箱に捨て、安日樹と亜音子は、再び、手を繋いで歩き始めた。

「寒いね、姉ちゃん。」

「寒いわね、安日樹。」

呟けば、声が返ってくるあたたかさ。それは、紛れもなく、あの守銭奴たちが、思い出させてくれたこと。亜音子と安日樹は、その幸せを噛みしめる。

ぽつぽつとつきはじめる街灯。雪の降り始めた寒空の下を、二人は、笑顔で帰っていった。

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