・浮気表現アリ
宮舘 side.
喉に引っかかって、少しだけ掠れた声が、喉から漏れる。
手の中にあるのは、この辺りの繁華街にあるラブホテルのレシート。と、やけに甘ったるいムスクの香水の匂いが残った、女物のレースのハンカチ。
ドアを一枚隔てた向こう側では、俺の様子なんてちっとも知らない翔太が、のんきに湯船に浸かっているところだろう。
あまりにも雑すぎる浮気の隠ぺいは、翔太の適当で詰めが甘い性格からなのか、それとも。
虚しい呟きは、シャワーの打ち付ける音だけが響くリビングに溶けて消えていった。
生まれた頃からずっと一緒に生きてきたから、翔太の考えていることは、他の人よりも正確に理解できる自信がある。
だから、翔太が浮気をしていることは、今日こうやって確実な証拠を見る、だいぶ前からなんとなく分かっていた。
それに加えて、「あの」証拠があれば、翔太はきっともう言い訳できないだろう。
でも。
例のレシートを丸めて、ゴミ箱に投げ入れる。
ハンカチも、丁寧にたたみ直して翔太のコートのポケットへ。
もしも、翔太に浮気の証拠を突きつけたら。
そう言って、そのままお別れ……なんてことになってしまいそうで。
そんなことになったら、きっと俺は耐えられない。
いつか来てしまうのだろうそれを少しでも先延ばしにしたいから……これ以上、傷付きたくないから、俺は今日も気付かないふりをして、風呂上がりの翔太を出迎える。
翔太はずるい男だ。
真っ直ぐに大切な人に向き合うのが下手くそで、いつも遠回しで姑息な手を使うし、変に一人で抱え込んで、孤独になる。
そんなだから、付き合った女の子ともうまくやっていけなくて、学生時代は何度も彼女を替えていたのを思い出す。
でも、その時友達という顔をして隣にいた俺には、「愛の言葉なんて、照れくさくて真っ直ぐには伝えられないから」「大切な人の前では弱みを見せたくないから」という、きっと誰が聞いてもあきれてしまうような、不器用な理由もわかっていたから。
そんな不器用な翔太のことも、そんな翔太を唯一理解してあげられる自分のことも好きで、気が付いたら、「頼めば身体を差し出してくれる、都合のいい男」でもいいから、翔太と一緒にいたいと思うようになってしまっていた。
相手の行動に一喜一憂するのも、身体を重ねることに幸せを感じるのも、全部俺だけ。
そう考えると、わかっていることなのに、やっぱり少しだけ虚しくて。
俺の気持ちなんて一つも知らずに、俺の作った料理を食べる翔太がどうしようもなく憎らしくなって。
こう言えたら、俺はどれだけ楽になれるんだろう。
この関係も終わらせることができて、翔太も「浮気をしている」という罪悪感から逃れられて。
どっちにとっても、悪いことなんてないはずなのに。
それなのに、ご飯を食べる翔太を眺める俺はまだ、翔太とやり直せる道を諦められない。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!