第2話

「手遅れ。」①
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2025/04/02 11:00 更新




・浮気表現アリ








宮舘 side.




dt
……ほんとに、馬鹿な人





喉に引っかかって、少しだけ掠れた声が、喉から漏れる。





手の中にあるのは、この辺りの繁華街にあるラブホテルのレシート。と、やけに甘ったるいムスクの香水の匂いが残った、女物のレースのハンカチ。





ドアを一枚隔てた向こう側では、俺の様子なんてちっとも知らない翔太が、のんきに湯船に浸かっているところだろう。





あまりにも雑すぎる浮気の隠ぺいは、翔太の適当で詰めが甘い性格からなのか、それとも。




dt
俺のことなんて、もう眼中にないから?





虚しい呟きは、シャワーの打ち付ける音だけが響くリビングに溶けて消えていった。










生まれた頃からずっと一緒に生きてきたから、翔太の考えていることは、他の人よりも正確に理解できる自信がある。





だから、翔太が浮気をしていることは、今日こうやって確実な証拠を見る、だいぶ前からなんとなく分かっていた。





それに加えて、「あの」証拠があれば、翔太はきっともう言い訳できないだろう。





でも。




dt
捨てといてあげるか……





例のレシートを丸めて、ゴミ箱に投げ入れる。





ハンカチも、丁寧にたたみ直して翔太のコートのポケットへ。




dt
大丈夫。なにも、見てない





もしも、翔太に浮気の証拠を突きつけたら。




Nb
そうだよ。俺には、他に好きなやつがいる





そう言って、そのままお別れ……なんてことになってしまいそうで。





そんなことになったら、きっと俺は耐えられない。





いつか来てしまうのだろうそれを少しでも先延ばしにしたいから……これ以上、傷付きたくないから、俺は今日も気付かないふりをして、風呂上がりの翔太を出迎える。







dt
ねぇ、今日。しよう?
Nb
……うん。いいよ





翔太はずるい男だ。





真っ直ぐに大切な人に向き合うのが下手くそで、いつも遠回しで姑息な手を使うし、変に一人で抱え込んで、孤独になる。





そんなだから、付き合った女の子ともうまくやっていけなくて、学生時代は何度も彼女を替えていたのを思い出す。





でも、その時友達という顔をして隣にいた俺には、「愛の言葉なんて、照れくさくて真っ直ぐには伝えられないから」「大切な人の前では弱みを見せたくないから」という、きっと誰が聞いてもあきれてしまうような、不器用な理由もわかっていたから。





そんな不器用な翔太のことも、そんな翔太を唯一理解してあげられる自分のことも好きで、気が付いたら、「頼めば身体を差し出してくれる、都合のいい男」でもいいから、翔太と一緒にいたいと思うようになってしまっていた。




dt
(俺だけなんだろうな、ぜんぶ)





相手の行動に一喜一憂するのも、身体を重ねることに幸せを感じるのも、全部俺だけ。





そう考えると、わかっていることなのに、やっぱり少しだけ虚しくて。





俺の気持ちなんて一つも知らずに、俺の作った料理を食べる翔太がどうしようもなく憎らしくなって。




dt
俺のこと、もう好きじゃないよね
Nb
……なに、急に
dt
わかってるよ。翔太が浮気してることも、全部。
だからさ、別れよう。合鍵も、返してほしい
Nb
は……?
dt
(……なんて、言えたらいいのに)





こう言えたら、俺はどれだけ楽になれるんだろう。





この関係も終わらせることができて、翔太も「浮気をしている」という罪悪感から逃れられて。





どっちにとっても、悪いことなんてないはずなのに。





それなのに、ご飯を食べる翔太を眺める俺はまだ、翔太とやり直せる道を諦められない。




dt
(何やってるんだろう、俺)















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