そう言ってやってきた翔太は、いつもよりも時間をかけて準備をしたのか、服装も髪型もすごくかっこよくて。
長く付き合って、気を遣わなくなったがゆえのラフな服装の翔太も好きだけど、付き合い立ての時みたいに、こうやってめかし込んで来てくれる翔太もやっぱり好きだな、なんて噛み締めるように思った。
翔太の返事を聞いて、キッチンに並べてラップをかけておいた料理たちを温める。
単純な俺はやけに張り切ってしまって、自分から今日の料理たちを見ても、どこか気合いが入っているのが手に取るようにわかってしまって、自分でも少しだけ笑えてくる。
誰に向けるともなく呟いて、冷蔵庫の扉を開く。
小一時間くらい前から冷やしてあるブルーベリームースが、まるでグラスに入れられるのを待っているようにこちらを覗いていた。
あたためた料理たちを並べると、翔太の瞳がわかりやすくきらきらと輝く。
何度も作って食べ慣れているはずの料理でも、いつも初めて食べたみたいに頬を紅潮させて「うまい」と言ってくれる。
本人にとっては無自覚な行動の中のひとつなのかもしれないけど、俺の作ったご飯を食べるときの、無邪気な子どものような笑顔も、翔太の好きなところのひとつだった。
ご飯を食べ終わって、デザートを出そうと立ち上がると、服の袖をわずかに引かれる。
見下ろした翔太の顔は、今までに見たどんな顔とも違う表情をしていて、なんとなく、これから翔太が何を言おうとしているのか、気づきたくもないのに、気づいてしまった。
そろそろだろうなと思っては、まだ大丈夫だろう、と考えることを後回しにしてきた。
でも、いざその時が来ると、やっぱり胸が痛い。
返事をしない俺に、翔太が言葉をつなぐ。
少し強がった俺の言葉に、翔太は少しだけそのきれいな瞳を揺らしてから、ふっと目を細める。
一通り別れ話が終わると、翔太は、「今度、荷物取りに行くな」と、それだけ言い残して行ってしまった。
思っていたよりも、怖がっていたよりも、ずっと緩やかで穏やかな終わり方だった。
でも、思っていたよりも、怖がっていたよりも、ずっと……俺の心に空いた穴は大きかったみたいだった。
それはきっと、別れ際に翔太が残して行った、あの言葉のせい。
俺が、翔太とまっすぐに向き合うことを避けたから。
翔太が口下手で、自分からはまっすぐに向き合えない人だって、わかってたのに。
俺が気づいてあげないと、ダメだったのに。
乱暴に目元をこすっても、こすっても、涙はあとからあとから溢れてきて。
翔太がいなくなってからやっと言えた、初めての本心。
でも、そんな虚しい呟きは、物音ひとつしないリビングに溶けて消えていった。
完結しましたので、元ネタである曲のYouTubeリンクを貼っておきます。
正解は、マカロニえんぴつ さんの「ブルーベリー・ナイツ」でした!
歌詞をさり気なく文の中に織り交ぜている部分もあるので、ぜひ歌詞を見たり、曲を流しながら読み返したりしてみてほしいです。






![⛄💜17時のスイッチ[完結]](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/EOkNL2MhxNOnLeVbLBmpGszqo363/cover/01KDMET6R8CVT70D1RTK9AKTAJ_resized_240x340.jpg)





編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。