第4話

「その一言が、魔法の言葉すぎて」
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2026/03/06 12:11 更新
玄関の鍵を閉めて、自分の部屋のベッドに、
顔を埋めるように突っ伏した。

(…先輩の手、あたたかくて、ほっとしたな……)

やっぱり、恋ってすごい。
一つの言葉や行動だけで、心が揺さぶられる。




「はぁ……」




ふところに手を当てて、小さくため息をつく。

(……好きって、言えへんかったな……)

大好きやのに、口に出せんかった自分が悔しい。


……今日こそは言うつもりやったのに。

いつも先輩のことを考えると、胸がぎゅっと締めつけられる。
情けなさと、ほんのちょっとの悔しさとが混ざって、体の奥がむず痒い。


スマホがピロン、と光った。

____先輩からや。




《無事に家に着いたか?》




それだけで胸がきゅんとする。
気がついたら、手が少し震えていた。
なんて、返すか迷ったけど、結局素直に返す。




《はい、無事に家に着きました》




心臓がバクバクして、息が少しはやくなる。

ベッドのシーツをぎゅっと掴み、スマホを胸に置く。
手元の画面には、先輩から新しいメッセージが届いていた。




《今日、らぴすと一緒に帰れて楽しかった。また、一緒に帰ろうな》




……え。


たったそれだけ。
「楽しかった」なんて、たぶん深い意味もない。
なのに、スマホを握る手が熱い。

(俺以外にも言うくせに……)

分かっとる。
先輩は、誰とでも楽しく話すし、だれと帰っても
同じことを言うんや。

それなのに、心臓がやたらとうるさい。
布団に潜っても落ち着かなかった。

並んで歩いてたとき、自然に歩幅を合わせてくれたこと。
さりげなく、車道側を歩いてくれたこと。


全部、ただの『優しさ』だって分かっとるのに。

心が落ち着かないまま、なんとか手を動かして、
返信を打った。




《俺も楽しかったです》




それが精一杯だった。

(先輩にとって俺は、、、何なの…)

胸の奥でじわじわと広がっていく。
先輩がくれた言葉が、あまりにも優しすぎて、
逆にその優しさが、空っぽに感じてしまう自分がいた。




「先輩は、俺のこと意識してないんかな…」




なんて、そんなの分かりきってたやろ。

何度も携帯を見返しては、先輩の顔が浮かんでくる。
そのたびに、胸が締めつけられるような気がして、まるで自分だけが浮いているような気がした。







____








時刻を見るともう22時だった。


寝ようと思って、布団に入るものの、
心臓がバクバクしていて、眠れない。
先輩の一言が、何度も頭をぐるぐる回っていて
気づけば、またスマホを開いてしまう。

(先輩への好き、止まらない……)

目を閉じても、先輩の顔が浮かんで、
ずっと、心の中でその言葉が鳴り響いていた。




「恋なんて、辛いだけやん…」




その言葉は、余計に自分を辛くさせるだけだった。






____結局、朝まで眠れず、朝日が差し込んだときに、
ようやく眠りについた。

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