二人とも気づいていた
この騒がしい世界の中で、自分たちだけが、
感情の置き場所を見失っていることに。
あなたの下の名前が絞り出すように呟く
その瞬間、彼女が部屋を飛び出そうと背を向けたとき―――
『 ガシッ 』
熱い衝撃が彼女の手首を縛った
強引に引き寄せられた視界の先
泉が、見たこともないほど必死な顔であなたの下の名前を睨みつけていた
震える声で、泉が自分の右手を差し出す
それは『助けて』という悲鳴のようでもあり、
独りきりの夜に引きずり込まれそうな自分を繋ぎ止めてくれという、
切実な願いのようでもあった
差し出された泉の手は、驚くほど熱かった
あなたの下の名前はその手を、拒絶するように見つめ
――そして、壊れ物を扱うように、そっと指先を重ねた












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!