第12話

冬の帰り道 ― 康二side ―
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2026/02/26 10:31 更新
玄関のドアが閉まった瞬間
向井康二
向井康二
……はぁーーー……。
力が抜けたみたいに背中を預けた
家の中は静かだった

誰もいない

さっきまで隣に誰かがおった気配が急になくなると
なんか……広い。
向井康二
向井康二
……マジかぁ
ぽつりと呟く、
靴もちゃんと脱がないまま、ぼーっと立ってた

手を見る…さっきまで
そこにあった温度

あなたの手、小さくて、冷たくて
でも途中から、ちゃんとあったかくなって

思い出した瞬間、顔が熱くなる。
向井康二
向井康二
…恋人繋ぎて
リビングに入って
ソファに倒れ込む、顔をクッションに埋めた
向井康二
向井康二
無理無理無理………
声がこもる、心臓がまだ落ち着かない

退院して
会いに行ったら
あんな顔して立っとるとか

反則やろ

泣いとったやん、嬉し泣きやろ?
あれはそういうことやんな?

名前呼んだ時の声

――康二
向井康二
向井康二
あーーー、あかん
天井を見る

思い出す

マフラー巻いた時

近すぎた距離

泣き出した顔

強がってるのに

全然隠せてへんとこ

帰り道

手離そうとしたら

普通に握り返してきたこと
向井康二
向井康二
………あれなんなん!!
笑いが漏れる、嬉しすぎて意味分からん

窓際で本読んどる時も
体育のあとフラフラしとった時も
ずっと気になっとった

笑わん子やと思っとったのに

今日、初めてちゃんと笑った

門の前で、ちょっとだけ口元緩んだやん
向井康二
向井康二
……あれ
胸を押さえる、ドクドクしてる
手術跡の奥が少し疼く…でも苦しくない

むしろあったかい
向井康二
向井康二
……元気になってよかったわーー
あの日保健室で倒れて病院連れてってもらってから
正直めちゃくちゃ怖かった
また入院かって…また全部止まるんかって

でも……

保健の先生から聞いた

『あの子、あなたのこと聞きに来てたわよ』って。

何回も来てたって、それだけで頑張れた
絶対会いに行こって思った

……なのに今日
普通に歩いて、普通に喋って、普通に手繋いで

名前呼んでもろて。

「……好きになってまうやろ。」もうなってるけど

一度立ち上がってひとりごとを言いながら
にやけてしまって、またソファに倒れ込む

クッションを抱きしめる
あなたの顔が浮かぶ

『違うし』って真っ赤になっとった顔

『考えとく』ってそっけなく言った声

なのに、最後、振り返った時
ちょっと寂しそうやった

「……あー……。」

天井を見る。ニヤける。止まらん!!

「はよ、会いたいーーー」

学校明日来るかな、来てくれるかな
また名前呼んでくれるかな

……手、また繋げるかな
考えてたら、急に体を起こした

「……あ。」

数秒

固まる
向井康二
向井康二
あーーーーーーー!!!!
リビングに響く声

ソファの上で頭抱える
向井康二
向井康二
連絡先!聞くの忘れた!!
天井に向かって叫んだ
向井康二
向井康二
なんでやねん俺!!なんやねん!
するとリビングの扉が開いた音と同時に
『あほって言うんじゃない?あははは』とおかんの声
向井康二
向井康二
へっ、なに!?
聞いとったん!?おったん!?いつから
おかん
『ぜんぶ?ひとりごと大きいから、がんばってね』

と微笑む

恥ずかしい!!


退院初日

最大の失敗だった

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