アクセルを踏もうとした時、松井さんははっとしました。
緑が揺れて居る柳の下に、可愛い白い帽子が、チョコンと置いてあります。松井さんは車から出ました。
そして、帽子を摘み上げた途端、フワッと何かが飛び出しました。
紋白蝶です。慌てて帽子を振り回しました。そんな松井さんの目の前を蝶はヒラヒラ高く舞い上がると、並木の緑の向こうに見え無くなってしまいました。
刺繍糸で小さく縫い取りがしてあります。
「武山幼稚園 竹野 竹雄」
小さな帽子を掴んで、ため息を付いて居る松井さんの横を、太ったお巡りさんが、ジロジロ見ながら通り過ぎました。
ちょっとの間、肩をすぼめて突っ立って居た松井さんは、何を思い付いたのか、急いで車に戻りました。
運転席から取り出したのは、あの夏みかんです。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!