副頭取は舞台から降り、部屋の隅で縮こまっていた杉下君と蘇枋君の喧嘩相手の前で足を止めた。
こちらには背を向けているのに、それでもこの重圧。
正面からその圧を受けている彼らのプレッシャーは相当なものだろう。
現に彼らは震える声で話し始めた。
その瞬間、副頭取は拳を二人に振り下ろす。
一度では終わらず、彼らが起き上がれなくなるまで、何度も何度も。
いきなりのことで私達だけでなく、獅子頭連も唖然としながら、その光景を眺めることしか出来なかった。
異様な空気になった室内に、ふと明るい声が響き渡る。
この場に不似合いな明るい頭取の言葉に、副頭取は拳を下ろす。
そして動かない二人から獅子頭連のスカジャンを剥ぎ取ると、投げ捨てて壇上へ向かい出した。
かなり迷った末、カバンに手を伸ばす。
意を決すると同時に持ち手をギュッと掴むと、恐る恐る足を動かした。
すると副頭取の視線が再びこちらに向けられる。
思わず足が止まって顔が強ばったが、それと同時に視線は逸れた。
さっき、あの人はあそこの二人に怒ってたみたいだった…
私や笹城君に対して、あの人達がしてしまったことを怒ってた…よね…?
だとしたら…副頭取は昨日何があったのか、ちゃんとは知らなかった…?
副頭取は立ち上がる桜君を見つめ、傷心の滲む笑みを浮かべた。
あの人達の手当てを一度は止めた蘇枋君と楡井君だったが、「気になるため」「私のため」と言い張ると、
梅宮さんの説得もあり、二人は折れてくれて、手当の手伝いまでしてくれた。
おかげですぐに手当てが終わり、柊さんの喧嘩相手とのようなハプニングもなく、無事に席に着く。
舞台を見上げると、拳や足が飛び交っていた。
けれど副頭取の攻撃は全く当たらず、桜君の攻撃を受けるばかりだった。
さっきまでと違う様子に、獅子頭連はざわめいている。
そんな様子の副頭取に、遂に桜君は拳を下ろした。
桜君の言葉に、副頭取は「…はは、」と息を着くように笑い、
自問するように呟きながら、髪をかきあげた。
変わらず桜君は問答を続ける。
その問いに副頭取は髪をかきあげていた手を下ろすと、真っ直ぐに桜君を見つめ返した。
副頭取はそう答えた後、ふと舞台正面の壁を見上げる。
その壁には獅子頭連のスカジャンにプリントされている獅子の絵が、大きく描かれていた。
それを見つめながら、副頭取は再び口を開く。
その声はとても穏やかで、優しかった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!