💘第3話「雨の帰り道」
文化祭が終わったその日の放課後。
空はどんよりしていて、
ポツ、ポツ……と小さな雨が降りはじめていた。
傘を忘れた僕は、校門の前で立ち尽くしていた。
そしたら、肩にふわっと布がかかった。
「はい、これ。」
振り向くと、彼女が自分の傘を差し出していた。
「一緒に帰ろ?」
それだけで、世界が少し明るくなった気がした。
二人で並んで歩く道。
雨の音と、足音だけが響く。
ときどき傘の内側で、肩がぶつかる。
そんな距離がくすぐったくて、何も言えなかった。
沈黙を破ったのは、彼女だった。
「文化祭、楽しかったね。」
「うん。」
「……ほんとは、言いたいことあったんだけどな。」
「え?」
彼女は傘の影から僕を見た。
「でも、勇気が出なくて。」
その一言が、胸の奥でずっと響いた。
なにを言おうとしてたんだろう。
聞きたいのに、聞けなかった。
だって、僕も同じだったから。
家の前に着くと、彼女が小さく笑った。
「また明日ね。」
そして走り出した瞬間、
傘の中に、残りの雨がポツポツと落ちた。
彼女の残したぬくもりが、まだ肩に残っていた。
——あのとき言えなかった言葉。
「好きだよ」って、たった一言が。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。