第3話

雨の帰り道
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2025/10/14 11:13 更新
💘第3話「雨の帰り道」

文化祭が終わったその日の放課後。
空はどんよりしていて、
ポツ、ポツ……と小さな雨が降りはじめていた。

傘を忘れた僕は、校門の前で立ち尽くしていた。
そしたら、肩にふわっと布がかかった。
「はい、これ。」

振り向くと、彼女が自分の傘を差し出していた。
「一緒に帰ろ?」

それだけで、世界が少し明るくなった気がした。

二人で並んで歩く道。
雨の音と、足音だけが響く。
ときどき傘の内側で、肩がぶつかる。
そんな距離がくすぐったくて、何も言えなかった。

沈黙を破ったのは、彼女だった。
「文化祭、楽しかったね。」
「うん。」
「……ほんとは、言いたいことあったんだけどな。」
「え?」

彼女は傘の影から僕を見た。
「でも、勇気が出なくて。」

その一言が、胸の奥でずっと響いた。
なにを言おうとしてたんだろう。
聞きたいのに、聞けなかった。
だって、僕も同じだったから。

家の前に着くと、彼女が小さく笑った。
「また明日ね。」

そして走り出した瞬間、
傘の中に、残りの雨がポツポツと落ちた。
彼女の残したぬくもりが、まだ肩に残っていた。

——あのとき言えなかった言葉。
「好きだよ」って、たった一言が。

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