第20話

君と共に。
533
2024/01/21 11:44
君がいなくなってからずっと塞ぎ込んでいた俺は、久しぶりに外に出た。

空はあの頃と変わらず澄んでいる。

途中花屋さんに寄って、何本かで花束を作った。
岩本照
……ぇで…んんっ
れ、でお願い、します。
今まで人とろくに話していなかったから、うまく声が出なくて戸惑った。

少し歩くと、電話が鳴った。


        『深澤辰哉』
岩本照
…久しぶり。
あれ、もしかして桜の木のとこ?
…え、俺今そこだよ?
店から出て、声を出しながら移動する。
と、前から人がやってきたので、慌てて口を閉じた。

2人の男性だ。
その片方が、花束を羨ましそうに見つめていた。
その純粋な姿は、佐久間を思い出す。

その先に、俺の見知った顔が手を振っていた。
深澤辰哉
久しぶり!
まさか来てるとは笑
変にしんみりするでもなく。
だからと言って、空気を読んでない訳じゃない。
背中にそっと回された手が、それを物語っていた。
岩本照
…おう笑
ふっかは変わんないな。
深澤辰哉
照こそ笑
俺の手に持った花束を見て、首を傾げる。
深澤辰哉
…それってもしかして、サクマさんに渡すやつ?
岩本照
えっ……そう。
なんでお前覚えて…
深澤辰哉
あ、翔太。
話を逸らすように指を差したふっか。
俺はそこに目線を向けた。
岩本照
…よぉ、翔太。
渡辺翔太
…よっ、照。
翔太は泣きそうに顔を歪めて、でも堪える。
ふっかは佐久間に記憶を消された1人だった。
対して、翔太は抵抗した1人。

…にしても、声が出しにくそうだ。
岩本照
翔太って、能力まだあんの?
翔太は少し驚いたような顔をした後、納得したように首を横に振った。
渡辺翔太
そう、いえば、照に、は話す…した、してなかった…な。
翔太は俺が塞ぎ込んでいた間で分かった事を、ゆっくりと話してくれた。

あの日、俺はすぐ家に帰ってしまったが、記憶が無い3人以外はふっかの家で集まって話し合ったという。

最後、敵に抵抗されたせいでみんなの能力が暴走して、自分自身に被害を与えたらしい。



翔太は、声で命令できる力が暴走して、春の間声が出しにくくなった。

舘さんは、目を合わせて命令できる力が暴走して、左目が見えなくなった。
(爆発時の阿部を庇った時の怪我らしいけど、舘さんがそう言い張ったので。)

ラウールは、体の大きさを変えられる力の暴走で子供の姿になった。

阿部は、性別転換の力の暴走で、春の間だけ女になったらしい。

渡辺翔太
記憶っ…無い人は、障害、も、ない。
…本当に、ただの人だ。
翔太がポツリと呟いて、力無く笑った。
その後、ふっかに呼び集められた3人と合流した。
子供姿のラウールと、女性姿の阿部のせいで、どう見ても仲のいい家族(夫、妻、子)にしか見えない。
ラウール
花びらきれーだね…
阿部が強引に佐久間の話を逸らし、桜に目を向けた。
ラウールが眩しそうに桜を眺める。
俺も、誰も、その事に何も言わない。




ただ、綺麗で。

















散っていく姿が、とても、綺麗で。






















君が残したものは、






この桜の木と共に、










俺の、









俺たちの、










中にある、























こんな風に思える、心。















綺麗だなって。


















悲しいくらいに、愛おしい。












岩本照
ありがとうっ……
俺は、それしか言えなかった。








……いや。




それだけで十分なのかもしれない。


うまくまとまらない頭で、そんな事を思う。










宮舘涼太
……
ありがとう。
阿部亮平
……っ。
ありがとう。
ラウール
……。
俺たちと話してくれて。
深澤辰哉
……
俺たちと出会ってくれて。
渡辺翔太
……ヒッ
翔太は子供の様に泣きじゃくる。









君も、最期に泣いていたね。









でも、












そんな泣き顔も、










怒ったように頬を膨らませる顔も、














俺にだけ見せた笑顔も、
















忘れないから。





























佐久間大介
ひかる。










岩本照
っ!?
不意に君の声がした。

幻聴?

でも…
岩本照
佐久間?
一縷いちるの望みを込めて、優しく呼んでみる。























でも、声は聞こえなかった。















それでもいい。























君は、俺の中にいるから。



                end







プリ小説オーディオドラマ