君がいなくなってからずっと塞ぎ込んでいた俺は、久しぶりに外に出た。
空はあの頃と変わらず澄んでいる。
途中花屋さんに寄って、何本かで花束を作った。
今まで人とろくに話していなかったから、うまく声が出なくて戸惑った。
少し歩くと、電話が鳴った。
『深澤辰哉』
店から出て、声を出しながら移動する。
と、前から人がやってきたので、慌てて口を閉じた。
2人の男性だ。
その片方が、花束を羨ましそうに見つめていた。
その純粋な姿は、佐久間を思い出す。
その先に、俺の見知った顔が手を振っていた。
変にしんみりするでもなく。
だからと言って、空気を読んでない訳じゃない。
背中にそっと回された手が、それを物語っていた。
俺の手に持った花束を見て、首を傾げる。
話を逸らすように指を差したふっか。
俺はそこに目線を向けた。
翔太は泣きそうに顔を歪めて、でも堪える。
ふっかは佐久間に記憶を消された1人だった。
対して、翔太は抵抗した1人。
…にしても、声が出しにくそうだ。
翔太は少し驚いたような顔をした後、納得したように首を横に振った。
翔太は俺が塞ぎ込んでいた間で分かった事を、ゆっくりと話してくれた。
あの日、俺はすぐ家に帰ってしまったが、記憶が無い3人以外はふっかの家で集まって話し合ったという。
最後、敵に抵抗されたせいでみんなの能力が暴走して、自分自身に被害を与えたらしい。
翔太は、声で命令できる力が暴走して、春の間声が出しにくくなった。
舘さんは、目を合わせて命令できる力が暴走して、左目が見えなくなった。
(爆発時の阿部を庇った時の怪我らしいけど、舘さんがそう言い張ったので。)
ラウールは、体の大きさを変えられる力の暴走で子供の姿になった。
阿部は、性別転換の力の暴走で、春の間だけ女になったらしい。
翔太がポツリと呟いて、力無く笑った。
その後、ふっかに呼び集められた3人と合流した。
子供姿のラウールと、女性姿の阿部のせいで、どう見ても仲のいい家族(夫、妻、子)にしか見えない。
阿部が強引に佐久間の話を逸らし、桜に目を向けた。
ラウールが眩しそうに桜を眺める。
俺も、誰も、その事に何も言わない。
ただ、綺麗で。
散っていく姿が、とても、綺麗で。
君が残したものは、
この桜の木と共に、
俺の、
俺たちの、
中にある、
こんな風に思える、心。
綺麗だなって。
悲しいくらいに、愛おしい。
俺は、それしか言えなかった。
……いや。
それだけで十分なのかもしれない。
うまくまとまらない頭で、そんな事を思う。
ありがとう。
ありがとう。
俺たちと話してくれて。
俺たちと出会ってくれて。
翔太は子供の様に泣きじゃくる。
君も、最期に泣いていたね。
でも、
そんな泣き顔も、
怒ったように頬を膨らませる顔も、
俺にだけ見せた笑顔も、
忘れないから。
不意に君の声がした。
幻聴?
でも…
一縷の望みを込めて、優しく呼んでみる。
でも、声は聞こえなかった。
それでもいい。
君は、俺の中にいるから。
end
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。