第157話

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2024/04/08 13:29 更新

今回新会社のスタートにあたって、


ライブの総合演出をする松本さんに会ったのは3月。


ママのことが終わってすぐだった。

事務所の会議室に1人呼び出されて、机を挟んでと松本さんとスタッフさんに圧倒される私。





「たぶんちゃんと話すのはほぼ初めてかな?」


眼力強くそう聞かれて、普段空気をわざと鈍感に。

避けるようにしてきた私も今回ばかりは逃げられない。






「はい。個人的にお話させていただくのは初めてかと思います。」



そう冷静に返すと、沈黙が続く。


私はその間も自分で自分を褒めたいほど。


とっても冷静だった。













「4月あるライブ。

カウントダウンコンサートもなかった分、会社の新たな出発もかねてだけど。

もちろんSnowManとして片岡は出るよね?」



はい、出させていただきます。


その言葉を返す私の手汗はすごいものだ。














「各グループの歌を歌い終わってから、シャッフルメドレーが始まる間。

2曲を片岡に任せたいと思ってる。」





「え?2曲もですか???」



思わず聞き返してしまうと、松本さんがすこし不適な笑みを浮かべる。



「そう。2曲。

今回はジャニーズの歌じゃなくていい。

でも1曲はもうこっちで決めてある。

片岡にしか歌えないと思ってるし、新しい会社への景気付けの曲にぴったりだと思って許可ももう取ってある。


絶対に片岡あなたじゃ歌わない曲だと思うんだよね。」







私じゃ歌わない曲???


私ってどんなイメージなんだろうか??




影と光なら「影」  月と太陽なら「月」





SnowManでも影のあるメンバーはいないから自分自身をそうプロデュースしてきたつもり。






でも、決して暗いわけでも無口なわけでもないはずだ。




どちらかと言うと蓮やラウールみたいにモデル業も多いが、そこは兄のおかげかモニタリングに出たりと最近はメディアの露出も少なくない。


自分の過去だってぜんぶ曝け出してるし、恋愛観なんかも世間が見ての通りだ。


頭の上にハテナが浮かぶ私を松本さんもスタッフさんも少し笑っていて。


へぇ、そんな顔するんだね!もっとクールだと思ってたわ。


と言われて余計にわからなくなる。
















「Mrs.GREEN APPLE さんの


      『私は最強』

絶対に今までの片岡あなたじゃ歌わないであろう曲。

ちなみに聞いたことはあるよね?」



「あ、はい。街中でかかりますし。



でも確かに系統が違うので、、、。

正直代表曲ぐらいしか聞いたことはないで
す、、。



ご一緒する時に聞かせてもらうだけで。」




確かに毛色が違いすぎる。


セクシー路線で売る私には似ても似ない歌。


私は、私自身が最強だと思ったことなんて一度もないし

 


   怖くはない 不安はない 


なんて言い聞かせたことも思ったこともない。









「歌えない。なんて言わないよね?」






ドクンと心臓の音が大きくなる。


比較的に高い音域は、歌として歌えるだろう。



問題はそこではない。






『私の中にあの歌詞の感情がない』



思わずそんなに暑くもない部屋で冷や汗なのか脂汗なのか。

ジットリとした汗をかいてしまう。



「普段はさ、何を思って歌うの。

片岡にとって、歌ってる時は何が多いの。」




メッセージ性。喜び。怒りで歌うこともあった。


恋愛観。ファンがみんなに抱いているなんらかの恋心をイメージして歌うこともある。



でも、1番は










「その歌が持つ狂気を歌うことが多いです。


  自分にその感情を憑依させて歌うと


   相手に届くと思って歌ってます。」







そう、じゃあその曲の狂気を探すのが課題だね。






そう簡単に言われてしまって。



どうしたらいいのか、頭をフル回転させる。











歌いたくない。歌えない。





これが本音だ。










「2曲目は、片岡が歌いたい曲を選んでいいよ。


  この場で本当は決めてほしい。


正直、準備もあるし。バンドがいる曲なら頼まないと時間がないからね。」





『私は最強』ではなく。



本当に私が歌いたい曲。私らしい曲。



このライブは謂わば宴だ。



ファンに贈る。私たちからの最大のお祭り。

















「すいません。スマホ触らせていただいていいですか?」





一瞬全員が  え? って顔をしたけど、

松本さんだけが いいよ  と冷静に返答してくれてその場でスマホを取り出す。


私のスマホの中にある曲をスクロールしていく。





これじゃない。




これは違う。




私が、もし宴をするなら。



もてなす側だったら。



どんな風におもてなしをするのか。













「この曲、ご存知ですか?」





私はスマホの音を大音量にして



松本さんの目の前に置いた。





「いや、俺はこの曲初めて知った。


なに?この曲をやりたいの??」





松本さんはスタッフに、歌詞を調べてもらうように指示してタブレットですぐに歌詞が出される。



歌詞を見て、松本さんが段々と笑顔になっていく。



「この曲も、『私は最強』も。

スクリーンでちゃんと歌詞を出してほしいんです。

じゃないと、私が歌う意味がないので。」



ハッキリそう松本さんに言うと、周りのスタッフさんはギョっとした顔をしたけど。





「その意見には俺も同意だね。

どちらにも意味があって歌う曲なんだから。



歌詞はちゃんと、表示されるように」




私はそれでも、課題曲の重さに震えは止まらない。












「課題曲、歌えるように。


4月の頭にはリハーサルできかせてもらうから。


ちゃんと覚悟しといてね。



俺はライブに関しては妥協しないよ。」




そう松本さんが言う眼光がすごすぎて。


私は喉から掠れた声で  はい。 と返事をして。



そこからまったく、どうやって家に帰ったかは覚えていないほど。






約1ヶ月、頭を悩ませるのだ。

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