トラゾーside
ク「砕けた心が濾過出来なくて
涙はそっと枯れていく
もう一粒も流れなくて
おかしいよねって笑っている」
ゆっくりと丁寧に言葉を紡ぐ。
喋りかけるように、諦めた笑いで、事実を述べる。目が細められる。
ク「酷烈な人生貴方を遮る
迷路の荊棘
濁世の闇立ちはだかる
あぁ 君は誰よりも憂う人」
遮るっ、と少し辛そうな声で続ける。
安心したように笑い、そういう人だね、と眩しげな顔をする。
ク「だから今僕らは溺れかけてる寸前だろう
正しい呼吸に救われた
今はいつか死ぬために生きてるだけだ」
自分の首を溺れるように軽く絞める素振りをする。離してから、死ぬためだと落ち着いた風に言ってのける。
ク「雨が嫌いな訳を知ると
深いところで思い出すこと
そう 大粒のシャボン玉なら
きっと ふわふわでしとしと」
思い出す、と遠いものを見る目で、楽しかったものを思い出すようにふわふわと。
ク「地面の色を見て歩く
水溜まりのない場所選んでる
さては 不遇な道を逸れる為
自己防衛だってするんでしょ」
少し目線を下げる、左右を確認して、両手を諦めたように、開く。そのまま、首をかしげる。
「僕は今人間です 今日も明日も
その次の日も
認めるのは それくらいで良い
みんな別々の息を食べてる」
まるで人間でいたくないかのように、圧を持たせてそのくらいでいいという。目に力が宿った。
そっか、クロノアさんは猫になりたかったんだ、と思う。
ク「そう 君も今人間です
その姿が嫌いなだけで
憎めないよ優しいから
君は誰のためにも願う人」
手を差し伸べる、ゆっくりと説得するように言葉を続ける。
自分に差し伸べられたんだと錯覚する。
「ひらひらの花が散るために
水も土もひかりもその種も
僕の目の前にあるものが
その意味も過去も未来も
一つでも欠けると生まれないぜ
僕も君もあの人も」
成り立たないんだぜと、自信ありげに、力強く、紡がれる。差し伸べている手が拳を握る。あぁ、力強いなぁ、俺が守ってみせるなんて、言えないな。
「何でもないと言いながら
過去の荷物を君に背負わせる」
背負わせると、罪悪感を感じている、辛そうな表情で、告げる。
そんな顔はさせたくない、と思う。
「運命が通せんぼする
勘違い 自業自得だよ
でも 状況が良くなかいからね
逃げたいよね 生きたいよね」
静かに、今にも消えそうな囁くような声。
同意して、許容するような声。
あんな風に言われたら、きっと全部許容しちゃうんだろうな。
ク「この体を投げ出す
その瞬間があるとすれば
この世の闇 切り裂いてさ
ここに生まれた意味を探そうか
終わりの始まり
始まれば最後の人生だから
途方もない旅の末に
今にしかない時があるのだろう」
グァ、と力が籠った声、迫力がある。
俺のが体格もいいのに、力も強いのに、何故か不思議と飲み込まれる感覚があった。
ク「雨に溺れることはないな
それでもなんだか息苦しいな
いつか死ぬために生きてるなんて
それならさ それならば
もう壊れない壊れない
壊れない心の鐘を鳴らそう
曇天だろう 泥まみれさ
どこもかしこも
今この世を遮る迷路に線を引こう
この線がさ 重なる地図
君を照らすために咲く花さ」
今にも何かが割れそうな、強い声。凛とした、決意を固めた人の声。さっきまでの諦観は何処へやら、希望に満ち溢れた目で、前を見据えて手を伸ばした。手を掴みたくなった。
クロノアさんはただ綺麗だった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。