⚠️学パロ同学年
深夜二時。キッチンには甘い香りが立ち込め、テーブルの上には小袋の山が並んでいる。
中身は何度も試作を重ねて焼き上げたブラウニーだ。クラスの友達全員に配る用の「友チョコ」。けれどその山の中には一つだけ、明らかに気合の入り方が違うものがある。
ラッピングのタイの色を変え、中には小さく折りたたんだメッセージカード。
本命____こーくにだけは、特別なものを渡したい。でもストレートに渡す勇気なんて1ミリもない。ビビリなので。
だから、わざわざ友達全員分のチョコを用意してまで「みんなに配るついでにお前にもやるよ」という体裁を完璧に整えた。
明日、この「ついで」に紛れ込ませて、アイツにだけ本命を届ける。
我ながら完璧な作戦だ。高鳴る鼓動を抑えながら、俺は短い眠りについた。
ところが、当日の朝から俺の計画は崩れ始める。
教室に入るなり、俺はまず友チョコを配る作戦を開始した。
目についた人に適当に配りながら、ターゲットであるこーくの席に近づこうとしたその時。
ガラッと教室のドアが開いた。同じ部活の男子連中が数人、ニヤニヤしながら俺を呼びつける。
無理やり廊下に連れ出され、大量の市販の板チョコやクッキーを押し付けられる。その対応に追われているうちに、予鈴が鳴ってしまった。
さらに休み時間。今度こそ、と席を立とうとした瞬間。
今度は女子からの呼び出しだ。休み時間の度に一人、また一人。下駄箱や廊下の隅で、あからさまな「本命」のオーラを纏った袋を渡される。
「ありがとう」と受け取るたびに、通りすがったこーくがお前ばっかりモテやがってと言わんばかりの視線を送ってくるのがかなり癪だった。俺はアイツに渡したいのに。
昼休みも放課後の部活前も、友チョコを渡したい女子たちや部活の連絡事項に阻まれ、カバンの底に沈めた「例の一袋」を出すタイミングを完全に見失ってしまった。
みんなに配る予定だった友チョコはもう、こーくの一袋を除いて全部なくなっている。カモフラージュ作戦は失敗だ。
女子から貰った大量の紙袋たちが少し憎かった。
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結局今日一日こーくにチョコを渡すことは愚か、ほとんど話しかけることもできずに校門を抜けた。
なんとかタイミングが合ってこーくと一緒に下校できたのが不幸中の幸いだ。
いつものようにしょうもない話をしながら帰っていると、ふとこーくがジト目で俺の手元を覗き込んできた。
そう言ってこーくは大げさに溜息をつき、首の後ろで手を組んだ。
こーくがわざとらしく空を仰ぐ。その横顔を見ていたら、カバンの奥で出番を待っていた「アイツ」が、ズクン、と重くなった気がした。
もう今しかない。これが最後のチャンスだ。
俺は、カバンの奥から「アレ」を取り出し、こーくの胸元に無理やり押し付けた。
こーくは困惑した表情でそれを見つめている。
こーくはこれが俺の手作りだなんてこれっぽっちも思っていない様子だ。
こーく側から見ると女の子の気持ちを無下にするサイテー男になっているかもしれないが、渡せたのでまあよしとする。
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その日の深夜。机の上に置いたスマホがブブッと短く震えた。こーくからのLINEだった。
メッセージを見た瞬間、全身の血が沸騰した。
ベッドに倒れ込み、スマホを顔の上にかざして、何度もその文字を読み返す。
誰もいない自室で、俺は今日一番のガッツポーズを決めた。
__こーく視点__
スマホの画面に表示された、びびくんからの素っ気ない返信。
そのあまりにも平静を装った短い言葉に、俺は思わず口元を緩めた。適当なスタンプを一つ返して、スマホを放り出す。
仰向けになった視線の先、ベッドの端には、さっきまで俺が中身を堪能していたチョコの空き箱と、一枚の小さなカードが置いてある。
改めてそのカードを手に取る。
そこには、見間違えるはずもない、あいつの独特な癖がある筆跡でこう書かれていた。
『好きです。俺と付き合ってください』
確信犯だ。
あいつ、メッセージカードまで仕込んでおいて、それを入れたことすら忘れて「女の子からの貰い物」なんて咄嗟に嘘をついたのか。愛すべきバカ。アホすぎて愛おしい。
確かに今日一日、びびくんの様子は明らかにおかしかった。
いつもの感じなら友チョコだって真っ先に俺に渡しに来るはずなのに、今日に限っては遠巻きに俺を伺うだけで結局最後まで何もなし。
と思っていたら帰り道では女子から貰った本命チョコを俺に寄越した。まあそれは結局嘘だったけど。
なんだ、そうだったんだ。
学校にいる間中ずっと、アイツから友チョコが回ってこないことを気にして落ち込んでいた俺に教えてやりたい。
慌て散らかして「え!?あ、いやそれは…!」と喚くびびくんの姿が容易に想像できる。それはそれで面白い。
しかし、俺は手に取りかけたスマホを再度机に戻した。
まだ内緒にしておこう。1ヶ月後、ホワイトデーのお返しをすると同時にびびくんの告白への返事をする。そして全部バレていたことに気づいて悶絶するびびくんの顔を特等席で見てやる。我ながら完璧な作戦だ。
俺はあいつの筆跡が残るカードをそっと指先でなぞりながら、深夜の部屋で一人、くすくすと笑い声を漏らした。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。