第94話

第79話 生き残りの種族
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2026/02/23 22:07 更新
 第79話です。活動再開してそうそう、またしても長らく投稿が止まってしまって大変申し訳ありませんでした。というのも、年末年始は私の私生活が思っていた以上に忙しく、更にそこからもう少し続きを書いてから投稿しようと思いそのままズルズルと更新が伸びていってしまった次第です。
 ですが、その代償として数話先まで書けておりますので、恐らくきっとまた近いうちに続きが投稿されると思います。(尚、まだ下書きの模様)

 さて、前回はラプラスたちとぺこら女王たちとの会合が思いのほか良い方向に進み、ひと段落しました。ホロベーダーについて不審な事実も幾つか判明しましたが、一旦はお開きのようです。……ですが、残念ながら今回もほぼ説明回となっています。物語的には重要ですが、単調で少々物足りないかもしれません。文章量も多くなるし……しかし、今後の展開にかなり影響してくる内容となっておりますので、頑張って楽しんでくださいませ。

↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba

~~~~~~


 ──長らくの会合を終え、議会の席はほんの一瞬だけ緩んだ空気を取り戻していた。

 気が付けば数時間にも及んでいた【秘密結社holoX】とコメット勢力との話し合いは、比較的平和に幕を閉じた。また、幾つかの取り決め自体は行ったものの、それでも語られた内容があまりにも多く濃密で、両陣営が互いに自分達だけでも話をしたいという流れになる。
 結果、ここは一度我々holoXも本部に帰還しようということになった。

「──それじゃあ、ラプラス……一旦ここでお別れなのです」

 会合がお開きとなり、ラプラスは長らく張り付いていた席からゆっくりと腰を持ち上げた。
 すると、隣に座っていたるしあも同じように立ち上がって、こちらに体の表側を向ける。

「この後の話し合いには私とあくあさんも参加しないといけないし、長らく留守にしてて色々ほったらかしにしちゃってるのです。ホロベーダーと事を構える前に、まずはその辺を片付けないと」

 そう寂しげに言う彼女は、更に一歩こちらに身を寄せてきた。
 そんな彼女の様子を見ていると、なんだかこちらまで胸が締め付けられるような気持ちになってくる。ただ今日のところはそれぞれ帰路に着こうというだけのはずなのに、この一カ月、毎日同じ屋根の下で過ごしていただけに感じる離れ難さが尋常では無かった。どうせ互いの準備が整えば、それこそまた明日にだって会えるというのに……。

「……あぁ。寂しくなるが、お互い立場的にもやることがあるし仕方ないな」

「そうだね……でも、ほんの少しの別れなのです。またすぐに会えるから……」

 そして、その想いは恐らく彼女も同じように抱いてくれていたのだろう。
 ……思えば、不思議な出会いだった。最初は敵同士で出会ったはずなのに、気付けば同じ食卓を囲むような仲になっていた。吾輩とるしあ、その間にあるのは契約以上の『友情』なのだ。


「────ラプラス、本っ当に……ありがとう」


 ひと時の別れを惜しむ中で、彼女がもう何度目になるかも分からない感謝を述べた。

「もう……気にするなって言ってるだろ? 吾輩とるしあの仲じゃないか」

「んーん、それでも言葉にしないと気持ちが収まらないのです。船でのことも、holoXで暮らした日々も、そしてこれからだって……私はあなたに救われた。この恩は決して忘れないのです。前にも言ったかもしれないけど、いつか必ず今度はるしあがラプラスの力になるから……!! ──だから今は、もう少しだけあなたに肩を預けさせて欲しい」

 その言葉が、吾輩にとってどれほど嬉しいものであったか。
 そう言う彼女の仕草一つ一つが、吾輩を感動させる。その言葉が、声が、これまでの苦労を吹っ飛ばし、また頑張ろうと思わせてくれる。……大丈夫だ。そんなことわざわざ言ってくれなくたって、吾輩はるしあの力になる。

「──勿論だ、好きなだけ頼ってくれ。吾輩もるしあの期待に応えられるように頑張るからな!」

「……ふふっ、ありがとう。期待してるのです」

 彼女の切なる思いの丈にそう答えつつ、吾輩は自身の右こぶしをグッと前に突き出した。考えてみればこういう時、るしあとどのように互いの同じ気持ちを共有すればいいのかわからなかった。握手?ハグ?それとも額と額を合わせる?……どれも吾輩と彼女の立場や性格的に、相応しいとは思えなかった。

 故に吾輩は、最も軽く、そして単純なそれを選んだ。きっと単なる友人であれば、それが一番だと思ったから。

 ────グッ。

 そして、そんな吾輩の仕草に彼女も応えてくれた。互いに突き出した握りこぶしをぶつけ合って、同じ気持ち……いや、同じ意思を持っていることを共有する。吾輩たちのすべきことはただ一つ、皆の望みのために奴等を滅ぼし故郷を取り戻すことだけだ。


 ……こうして、吾輩は耐え難い名残惜しさの中、議会の席を後にしたのだった。


 ******


 ──城の廊下。

 議会の席を離れ、るしあとあくあ先輩を残し吾輩たちは帰路についていた。帰り道の案内は宝鐘海賊団の一味らしい者達に任されており、恐らく女王らは引き続き今後の話し合いなんかをする為にあの部屋に残っているのだろう。……吾輩たちが居る前じゃ話づらいこともあるだろうし、そういう時間も必要だな。こっちはこっちで、会議の最中だったから何も言わないでくれたが部下達が、色々と口を挟みたそうにしていたし。

「……ねぇ、ラプ?」

 ラプラスはそんなことを思いながら、ここまで辿ってきた道を再び戻っていた。
 すると早速、自身の隣を歩く彼女から声が掛かる。

「なんだ幹部」

「ひとまず、詳しいことは後で話すとして……一旦私達は、向こうからの情報提供を待つってことでいいのよね?」

「ああ、そうだな。……あ、ただ食糧提供の準備だけ先にしといてくれ。多分そこが一番の死活問題だろ」

 こちらがすべきこと……といっても、まずはぺこら先輩たちが動くのを待つ以外に吾輩達に出来ることは無かった。何も知らないうちに勝手にホロベーダーと戦うわけにはいかないし、幹部の話では戦闘準備自体はもうとっくの昔に出来ているということだ。
 後は総帥からの指示さえあれば、すぐにでも軍単位で人員を出動できるほどに。

 となれば、こっちはその幾ばくかの期間待機ということになる。今日の今日で向こうの考えがまとまるとも思えないし、数日はコメット付近の宇宙空間で滞在ということになるだろう。
 ただし、そんな中でも食べる物ぐらいは先に渡しておくべきだ。この国の国民が普段どんな生活をしているのか分からないが、あって困るものでもないだろうからな。

「わかったわ。……こより、食糧の生産量を少し増やしてくれる? 構成員達の食事事情を圧迫するわけにはいかないから」

「うん、了解。ついでに諸々の在庫の管理もしておくよ、資料にまとめておくね」

「えぇ、助かるわ」

 総帥の命令に従い、ルイはこよりに指示を出す。全体指揮、そして組織の必要数を確保しつつ協力相手に提供する物資の準備をするのが彼女たちの仕事。……その全ては、悪魔がそれを望むが故に。

「ラプ殿っ! 風真たちは何をすればいいでござるかーっ?」

 また、そんなルイたちの反対側、ラプラスの左隣を歩くいろはがそう言った。

「え? うーん、そうだな……いろはにはC地区奪還の方に手を貸してあげて欲しいんだが、逆にそれまでは頼むことがないかもな……まあ、他に連れてく部隊編成くらいか?」

「了解っ! ……あーでも、その辺はルイ姉に言われて大体やってあるから、すぐに終わっちゃうかも……」

 吾輩の言葉に元気よく返事を返す侍。……けれど、その勢いが瞬間的に沈んでしまった。やはり、もうその辺に関しては準備万端というか、やることが残っていないのだろう。

「……沙花叉たち、もう既に戦う気満々だったからさー。……あっ! ってことは暫く暇しててもいいってこと?♡」

「え。……ま、まあ、吾輩は別にそれでも構わないけどさ。取り敢えずやって欲しいこととか無いし……」

「あら、いろはたちに頼みたいことは無いの? ──なら、二人を少し貸してくれない?」

 ルイやこよりと違って、どちらかと言えば実行部隊である二人に現状では特に頼みたい仕事は無かった。その結果新人が嬉しそうにしていたが、それを見てラプラスは顎に手を当て少々考える。果たして、優秀な彼女たちにそのまま暇を持て余させておいて良いのだろうかと……。

 すると、そう考えていたラプラスに対し、ルイが二人の”貸し出し”を申し出てきた。

「ん? まー、こいつらが良いんなら吾輩は別に問題ないけど……何させるんだ?」

「大したことじゃないわ。これまでと同じことをして貰うだけだから」

 少し意味深な表情を浮かべつつ、幹部はそう答える。そして、吾輩がその内容を更に問うよりも先に彼女は皆の前へと一歩踏み出し、いろはとクロヱの方に向き直った。

「二人とも、これは大幹部としての指示。──私達がこの星に滞在する間、十二時間交代で常に総帥に付き添っていなさい」

「えっ?」

 全員が足を止め、彼女の言葉に耳を傾けていた。
 しかし、それを聞いて最初に声を上げたのは当の本人達では無く、吾輩の方であった。

「ちょ……幹部、どういう意味だそれ。吾輩別に人手には困ってないし、それに二人はここのところずっと総帥担当で護衛してもらってたんだから、少しくらい休みをあげても……」

「なに言ってるの。ここは見知らぬ土地で、いつどんなことが起こるか分からないのよ? 総帥の護衛が多いに越したことは無いわ。……敵がホロベーダーだけとは限らないんだから」

 異議を唱えたこちらに対し、幹部はそう思い立った旨を答える。それは反論の余地が無いほど真っ当なものであり、この場に居た吾輩以外なら即答で同意するであろう内容であった。

 ……が、それでもやはり吾輩は納得できずにいた。その理由は単純明快で、特に忙しい彼女たちを労ったとかでは無く、単に”自分勝手な行動を容易く行えなくなるから”である。
 二十四時間体制で侍と新人が総帥の護衛に付く。それは、そう言い出した本人の思うところではないにしろ、吾輩にとってはある意味『監視が付く』ことと同義なのだ。今後も、るしあと二人だけの方が都合のいい話し合いをするかもしれないし、正直自分の周りにわらわらと人が居るのは困ってしまう。

 ──けれど、その大部分をラプラスは実際に口に出すことは出来なかった。
 故に彼女達は、ただ純粋な想いのまま悪魔の為に行動する。

「あなたはこれまで通り、自分のやりたいようにしてればいいわ。……ただ、それでもいざって時にすぐに使える人員が総帥の近くに居てくれた方が私も安心するの。特に頼むことが無いなら適当に雑用でも頼めばいい。勿論ラプツナズも出動させるけど、ラプが彼らに何かを言ってあげる必要もないから」

 それは、彼女なりにラプラスのことを想っての発言だった。普段から自由奔放で、気の向くまま先を見据えた自分のやり方を貫く悪魔。けれど、それが結果的に正しいことに繋がると理解しているからこそ、鷹嶺ルイはラプラスの行動を制限したりしない。

「──はぁ、わかった。……好きにしてくれ」

 そんな彼女の真っ直ぐな想いを受けて、ラプラスは少々言葉に詰まっていた。しかし、色々と言い訳を思い浮かべつつも、結局は駄々をこねても無駄だと判断する。
 吾輩を気遣ってくれているのは確かだろうし、それを無下にするというのもあまり気乗りはしない。まあ、自由にしていいって言うならある程度は許容するべきだろう。

「よかった。……あなた達も、問題ないわね?」

「「──勿論(でござる)!」」

 初めから命令ではあったものの、一応確認の為に聞いた幹部の言葉に二人は勢いよく答えた。あわよくば、本人たちが嫌がってくれるかもしれないと思ったのだが……とんだ淡い期待だったようだ。

「ラプ殿の護衛任務なら断る理由が無いでござるからな。……沙花叉、昼担当と夜担当どっちがいい?」

「ぜぇーったい夜がいい♪ ラプラスの護衛とか一緒に居るだけでいいんだし、夜なんておこちゃま総帥は寝てるんだから、実質休みみたいなもんでしょ~♪」

「……一応仕事だからね? もし交代の時にラプ殿と同じ布団で寝てたりしたら怒るでござるよ」

 護衛対象である本人の期待とは裏腹に、彼女達は至極楽しそうであった。

 ……本当は、一人の方が色々とやりやすいし都合がいいのだろう。しかし、そんな二人を見ているとそれでもいざって時に守ってくれる人が居るというのは、素直にありがたいことだと思ってしまった。
 折角彼女たちがやる気になってくれているのだから、吾輩はそれに感謝を抱きつつ、ボロが出ないように気を付けた方が良いのかもしれないな。

「……よし。それじゃあ一旦帰って、吾輩たちも準備するか。皆、明日から忙しくなると思うけどよろしく頼むぞ!」

「「「了解!」」」

 ──見慣れぬ土地の、危機を孕んだ城の中。
 静かな廊下に、そんな彼女たちの声が響き渡っていた。


~~~~~~


 ……騒がしさが過ぎ去った後の、『議会の席』。

 吹き抜ける星内の風が、部屋の中を少しだけ揺らした。それは、小柄な私にとっては少々肌寒く、片方の空いた手で反対側の自分の肩を擦る。
 相変わらず、あまり落ち着かず長時間居座るには少々身体に障りそうな場所だ。最初、話し合いをする為の部屋をこのような設計にしようと言い出した彼女を、あの時やはり止めるべきだったのかもしれない。

 ──しかし、それでも何故か今だけは、この部屋がどんな所よりも落ち着く場所なのだと断言できる気がした。
 そう思える理由は、至極単純なこと。今、私の目の前にいるのは長らく離れ離れになってしまっていた、運命を共にする愛すべき仲間たちなのだから。

「──それでは、holoXの方々も帰ったことですし一度私達だけで話をしましょう。……ただ、その前に……」

 眼を閉じ、そして開けばそこに皆が居る光景。この景色を、一体どれほど待ち望んでいたことだろう。失ってから初めて大切なものに気付かされるというが、まさにこれはそんな感覚だった。たった一カ月会えずにいたというだけのことなのに、それでも私は今この瞬間を皆で生きていられるだけで幸福を感じるほどであった。

 ……ただし、これからはもうこの景色を夢に馳せる必要はなくなる。
 ──なぜなら、”あの子”が私達を救ってくれると約束してくれたから。その言葉を心の底から信じているからこそ、私にはもう何も怖いものはないのだ。


「────るしあ、一体何がどうなってるんですか?」


 そこに居た半数の者たちが去った後の、議会の席。彼女から見て対面に座る赤髪の海賊がそう言った。
 またそれにより、自分の世界に入り込んでいた少女は外側の世界へと意識を向ける。

「……何がもなにも、もう全部話した通りなのです」

 ラプラス達が帰って、少々寂しくなった部屋。そこで私たちは、引き続き話し合いの場を設けていた。それは主にこれからの動きについて詳細を話し合うのだと思われるが、その話題が上がるより先にマリンが口を尖らせながらそう聞いてくる。

 何がどうなっているのか。はて、それはもう私達の知る限りを既に話したはずなのだが。

「確かにそうだけど、そうじゃないんだワ。──るしあ、一体どうやってあのholoXに取り入ったの?」

 彼女の放ったそんな言葉に、その場の全員の視線が私に集まった。
 現在、議会の席に居るのはholoXでの日々を共にした私とあくあさん、そしてその間コメットでホロベーダーと戦っていたぺこら、マリン、みこさんの全部で五名。彼女たちは元々座っていた席配置を継続のままに、顔を突き合わせていた。

「正直、船長は未だにこれらの話が真実だと信じきれていません。あの小さな総帥さんが、私達に協力してくれるということも……確かにるしあとあくたんは無事に帰ってきましたし、holoXの方々も話し合いの後に突然豹変するなんて様子もなく普通に帰って行きました。──ですが、相手は”あの”holoXなんですよ?」

 そう続けた彼女の言葉に、誰も大きな否定は示さなかった。
 確かに、マリンの抱く疑問や疑いはもっともだ。私達は長年の宇宙への進出の中で、少なからず彼女たちの噂を聞いていた。しかし、そのほとんどが侵略者、或いは破壊をもたらす悪の組織と彼女たちを称するもので、誰一人holoXが『良い集団である』などという評価はしていなかった。

 ──そして、それは恐らく真実ではあるのだろう。
 彼女たちholoXというものは、星々を侵略し征服する秘密結社。それ自体に嘘偽りはなく、事実これまでにいくつもの星を手中に収めているらしいのだから。

 ……けれど、それはあくまでこれまでの〖ラプラス〗に限った話。今の、私の友人である【ラプラス】には、そこに害意というものは存在していなかった。
 彼女自身から聞いた。この世界に来てしまってからも征服活動を続けているのには、ある理由があるからなのだと。それが何なのかも本人の口から話してもらったけれど、”ソレ”が見つかるまであの子は世界の為に侵略活動を止めるわけにはいかないのだ。

 ──ただし、それはあの本当にお人好しで、優しい彼女なりのやり方で。

「……マリンの言いたいことは分かるのです。でも、そのるしあ達がもつholoXの……ラプラスたちへの見方って、全部人から聞いたただの噂話でしょ?」

 だから私は、安心してあの子の隣に居られる、居たいと思える。
 確かにラプラスという悪魔は、他ならぬ悪魔なのかもしれないけれど。それでも彼女は、絶対に私達を傷つけたりしないと信頼できるから。

「噂はやっぱり、どこまでいっても噂だよ。それがるしあにもわかったから……別に、すぐに皆にもラプラスのことを信用して欲しいとは言わないのです。お互い、これから更に疑問に思うことや、不満も出てくると思うから。──でも、それでもできることなら、今までのあの子じゃなくてこれからのラプラスを見てあげて欲しい」

 それが、るしあなりの仲間たちに対する願いであった。
 何もあの子の事情を知らないマリン達が、全てを信じられるなどとは到底思っていない。けれど、それでもラプラスたちが、ホロベーダーを倒し故郷を取り戻してくれたのなら……きっと、皆も彼女を見直してくれるはずだ。

 ──だからそれまでは、疑心暗鬼でもいいから皆で力を合わせたい。

「……らしいぺこよ、マリン。ラプラスからるーちゃんを取り返せなくて残念だったぺこね」

 彼女の秘める願いを綴った後、一瞬の静寂が生まれる。
 しかし、その空気を寸断する様に、女王は揶揄うような口調でそう言った。そして、そう言われた本人は図星というわけでは無いけれど、それでも反論し難いという微妙な表情を浮かべる。

「……まあ別に、船長は皆が良いならそれで良いですけどー。個人的にholoXに対して何かあるってわけじゃないですしー」

 結果、マリンは更に口を尖らせて、不貞腐れた様にそう吐き捨てたのだった。
 なに、その言い方。マリンがラプラスに対して何か不満があったから、言い出したことじゃなかったの?

 ……そう心の中で思ったるしあであったが、それを直接口に出すことはしなかった。
 故に、話題はようやく本筋へと進む。


「────さて、それじゃあさっきマリンが言ってた通り、話をするぺこ」


 女王がそう言い放ったのを皮切りに、皆の注目が会議の内容へと向かった。

「まず、諸々の細かいことは置いといて……皆に大事なことを二つ、先に報告しておかなきゃいけないぺこ。──ひとつ目。今回の件とは別に、前々から言っていた『ホロベーダーの活動が活性化しているかもしれない可能性』について」

 それは、私達にとっては”あらかじめ示唆されていた”事項であった。
 ……実は、此度のholoXとの騒動が本格化するほんの少し前から、我々はホロベーダーの活動に関してある不可解な点を発見していたのだ。

「それって……前にぺこらが言ってたやつだよね? 確か、ふぁんたじあ内のホロベーダーが集団で移動してるらしいとかってやつ。でも、それについては”フレア”たちが調べてるって……そう言えば、あの二人はまだ帰ってないのです?」

 女王の話を聞きつつ既知の情報を整理する中で、るしあはその疑問に至る。それは自分達が物資調達の為宇宙に出る幾ばくか前のこと、惑星調査と称しふぁんたじあ内へ”二人の仲間”が率いた調査隊が向かっていたのだ。
 ……けれど、それからかなりの期間が空いているにもかかわらず、コメットに帰ってきてからまだ一度も彼女たちの姿を見ていなかった。

「まあ、簡潔に言えばそれの進捗報告も含まれてる。……実は、その件で調査に向かったフレアたちが現在ふぁんたじあから帰れねー状況になってるぺこ」

「っ!」

 それを聞いて、小さな衝撃を受けたのはまだそのことを知らなかった私とあくあさんだけであった。
 しかし、私たちは彼女達がコメットを旅立つところまで見送っているというのに、未だ帰れていないというのは一体どういうことなのか。

「向こうの報告によれば、なんでも惑星の調査中に乗ってった宇宙船がホロベーダーによって破壊されちまったんだと。そんで、それを聞いたぺこーらは直ぐに迎えの船を行かせようと思ったんだけど、生憎アンタたち宝鐘海賊団はその時物資調達の為の遠征中……んで、その後間髪入れずに例の騒動が起こった。その辺が原因でこっちも人手が回ってなくて、結局まだフレアたちの回収船を出せてねーぺこなんだよ」

「……なるほど……」

 女王の補足説明により、るしあはようやく話の概要を理解する。
 自分達の留守中、何らかの形でホロベーダーの襲撃にあったフレアたちは宇宙船を失ってしまい、帰るに帰れない状況に陥っていた。しかも、それは大変間の悪いことにまともに飛ばせる宇宙船の多くが出払っていた時に起こってしまった。更に、それに追い打ちをかけるようにぺこら達はコメット内でのホロベーダー発生事件でてんやわんや。
 結果、フレアたちは依然あの危険な惑星に取り残されたままの状況となっていた。

「……じゃあ、C地区奪還の前にまずはフレアたちを迎えに行くのが先なのです? それに回せる人手や宇宙船が無いって話なら、多分ラプラスに頼めば協力してくれると思うけど……」

「──いえ、結論から言えば船長とぺこらは先にC地区を奪還するべきだと考えています」

 現状、我々が抱えており早急に解決しなければならない問題が二点。一つはC地区が完全封鎖中であるこの状況をどうにかしなければいけないということ。そしてもう一つが、調査に向かったフレアたちを迎えに行かねばならないことだ。
 ……しかし、それらに関してマリンと女王は『前者』を優先すべきだと考えているらしい。

「その理由としては、まずフレアたちがこちらに比べ今すぐに助けに行かなくても良い状況にあるからです。……話の要点が前後してしまって分かりにくいですけど、フレアたちの現状は『宇宙船を破壊されてしまったが、通信手段は残っている』状態です。なので、今でも定期的に二人からふぁんたじあ内の状況が報告されています」

「……あぁ、そっか。だから宇宙船が壊れて帰れないって話も、こっちがそれを知れてるってことなのです」

「そういうことぺこね。ついでに言えば、フレアたちはそうなった後速やかに”ふぁんたじあに残った”『エルフ族』と合流して匿ってもらってるらしいぺこよ」

 その話を聞いて、るしあは納得の意を表した。
 ──エルフ族。そうそれは、古来よりふぁんたじあに住んでいた森を愛する屈強な戦士の種族。

 何十年も前、我々がふぁんたじあを放棄してコメットに移り住もうと計画したとき、実はそれに反発する集団があった。
 否、より正確に言うなら、『ふぁんたじあ内の特定の環境下でなければ生きられない』者達が居たのだ。彼らは生まれ持った体質や、それぞれの種族の性質によりその星を離れられない事情を抱えていた。

 それらの内の一つが、エルフ族。
 エルフは森に適応し、森もまたエルフに適応する。彼らは緑と共生共存の関係にあり、故に生まれ育った森を離れることが出来ず現在でも生き残ったエルフの大半が惑星内でひっそりと暮らしていた。

 ……そして、そんなエルフに関して最も驚くべき点が、彼らの強さにある。
 先の通り、エルフの他にも一定数自主的にふぁんたじあに残った者達が居たのだが、今となってはそのほとんどが既にホロベーダーによって滅ぼされていた。
 がしかし、そんな中でも彼らは持ち前の強さと団結力により、少しずつ生存権を奪われながらも何とかふぁんたじあ内での生存を成し遂げていた。無論彼らにとってもホロベーダーは脅威であるし、お世辞にも共存できているとは言い難い状況である。だが、それでも今のところ彼らが全て淘汰されたという報告が無いことも、また事実なのであった。

 そして、そんな屈強なエルフ族の血を引いているのが、私達の大切な仲間の一人【不知火フレア】である。彼女は元々宝鐘海賊団二番船の船長という肩書を持っていたのだが、エルフ族特有のその性により任を離れていた。そして、今は主にふぁんたじあ調査の方に力を入れており、定期的に星内に赴いている。

 ……要するに、現在フレアたちはそんな心強いふぁんたじあ在住のエルフ族と行動を共にしているということらしい。とすれば確かに、今すぐにでも助けに行かなければならない状況というわけでも無いようだった。

「なるほど……だからコメット内の問題解決を優先、ってことなのです」

「そうですね。──ただし、それはあくまでフレアたちの救出に緊急性は無いというだけの話。ぺこらの言い出したこの件には、まだ続きがあります」

 これまで姿の見えなかったこの場に居ない仲間たちの状況を知り、るしあはひとまず安堵する。
 ……しかし、そんな彼女に対し、マリンは真剣な表情のままそう続けた。


「先刻、そのフレアたちから重大な報告がありました。しかもそれは、ぺこらの示唆していた問題を確実に裏付けるもの。────やはり、ホロベーダーの動きが活発化しているというのは”事実”なようです」


 それは、あまりにも信じ難い現実であった。
 驚異的で、これまでにも多くのものを自分達から奪って行ったあの侵略者たちが、まさかここに来て更に勢いをつけているなんて……。

「……最初、この話が出たのはふぁんたじあの星内を観測していた、観測局からです。彼らの作った報告書によれば、これまでに見られなかった惑星内でのホロベーダーの大移動があったとのこと。更には、普段ほとんど姿を見せないエンティティまでもが数多く発見されています」

 淡々と、マリンは説明を続ける。

「それを受け、ぺこらはフレア達率いる調査隊を派遣しました。しかしその調査の最中ホロベーダーの群れに襲われ、船を放棄。その後エルフ族と合流したらしいですが、彼らもまた奴等が今までに無い行動や習性を見せ始めたと言っていたとのこと。……そして、それらの原因や理由については一切が不明のままです」

 そこまでを聞いて、るしあにも奴等の『今までに見られなかった行動』について、一つ思い当たる節があった。

 ──なぜ、本来そこに居るはずも無い場所で、ホロベーダーと出くわしたのか。

「……今回のコメット内でのホロベーダーの出現、そしてるーちゃん達の方で起きた事件も含めて、より一層この話の信憑性が増したぺこね。連中の生態が変わりつつある、或いはまるで一斉に何かに反応する様に奴等の行動に変化が起き始めてるぺこ。……何でか知らないけど、心底厄介極まりねーわ」

 それこそが、女王の提示した一つ目の共有事項であった。
 調査に出たフレアたちの取り敢えずの安全、けれど変わらぬ事実としてホロベーダーたちの動きの活発化。前者はともかく、後者に関しては今後直接自分たちの行動に影響してくる可能性があり、十分に注意しなければならない事であった。

「ぺこら、とりあえずそっちの話は分かったのです。……で、もう一つの方は?」

「……あぁ、そうぺこね。って言ってももう一個の方はそこまで重要じゃなくて、念の為の報告って感じで────最近、青人族の”復権派”に怪しい動きがあるらしいぺこ」

 新たに持ち出された、もう一つの報告。それは、この星で表面上の共存を余儀なくされた青人族との、謂わば遺恨そのものとも言える彼らの存在。

 ──元来、この衛星コメットには青人族が暮らす”とある王国”があった。しかしその国は、ふぁんたじあから多くの人々が逃れてくる際に半ば強制的に合併させられ、見る者によっては事実上滅ぼされたという歴史がある。
 そして、現在その国があった場所には両陣営に血縁を持つぺこらが女王を務める、新生ぺこランドが築かれているのだった。

 ……故に、歪な過去を持つこの国は、その影に多くの闇を抱えていた。
 その代表的な例として挙がるのが、青人族の王国再建を主張する『復権派』。彼らの多くは今尚この地で我々ふぁんたじあ勢力を疎ましく思いつつも、ホロベーダーの脅威に怯えつつ暮らしているのだった。

 しかし、そんな彼らがここに来て、不穏な動きを見せつつあるというのだ。

「……単なる偶然だけど、この場にすいちゃんが居ないことは好都合だったぺこね。この復権派の件はコメット内でのホロベーダー騒ぎ以前から報告には上がってて、ぺこーら達も監視の目を光らせてる。……ただ、今のところはまだ表立った問題を起こしてるわけじゃなくて、度々怪しい行動が見られるって感じぺこ。──よーするに、ぺこーら達はホロベーダーやholoX以外にも用心しなきゃいけない相手がいるって事」

 最後に、ぺこらはそう締めくくった。
 これらの話は、彼らが何かをしようとしているという確かな証拠を持ってのことではない。だが、ぺこランドの存続が危ぶまれている今、ホロベーダー以外の問題は出来るだけ起こしたくはないということだ。

 るしあにとって、holoXは既に警戒どころか安心して背中を預けられる存在である。けれど女王たちにとっては必ずしもそうではなく、また本命である侵略者達以外にも警戒すべき対象が居るというのが彼女たちの主張であった。

「まあ、以上が皆に報告しておかなきゃいけないことぺこね。どっちも今すぐ対処しなきゃいけないってことでも無いからラプラス達には話さなかったけど、全員頭には入れておいて欲しいぺこ」

「……了解。何もないに越したことはないけど、警戒しておくのです」

「そうですね。……みこちとあくたんもいいですか?」

 女王からの警告とも取れるその言葉に、るしあ達は同意した。
 また、マリンはそれと同時に、その場に居た他の者達へ確認を促す。……こういった話し合いの場では大抵、みこさんもあくあさんも極端に口数が少なくなる癖がある。

「あっ……う、うん、あてぃしは…スゥー…大丈夫……」

「み、みこも大丈夫にぇっ!……たぶん、きっと……」

 前者は会話にこそ入ってこなかったが内容を理解したように、後者はきっと内容の理解すら怪しいがそれでも返事だけは良く、彼女たちは答えた。
 みこさんの反応は少々心配ではあるが、まあ二人とも普段から自分たちなりに頑張ってくれているので恐らく問題はないだろう。……後は、あの”身勝手な人”だけどうにか話を聞いてくれれば……。

「よし。それじゃあ、ぺこーらから言いたかったことは以上として……マリンとるしあ、後の細かいことは任せたぺこ!」

 るしあが『彼女』について頭を悩ませていると、女王が突然そう言って席から立ち上がった。
 また、そのまま有無を言わせぬ速度で踵を返し、部屋を出ていこうとする。

「えっ……はぁ!? ちょ、待てよぺこら! まだ話は終わって……!」

「うっさい! ぺこーらは今日はもう疲れたから、部屋に戻りてーんだよ! ……それに、やらなきゃいけないこともあるし。後は二人で適当に決めちゃっていいぺこだから」

 歩き出した女王を止めようとマリンが声を掛けるが、彼女はそれすらも振り払う。そこには普段のぺこららしい乱雑さもあったが、同時に本当に何か別のことに囚われているようにも感じた。

「……ぺこら、そのやらなきゃいけない事って何なのです?」

 そう思ったるしあは、たまらず女王に投げ掛けた。すると、彼女はさも当然の様に──

「決まってんだろ。──今のぺこーら達がホロベーダーと戦う土俵に立つためには、まず最初にやらなきゃいけないことがあるぺこだよ」

 と答えた。
 しかし、それは正確には私が聞いたことに対する『答え』にはなっておらず、理解が及ばぬゆえに反応に困った。しかもそれはマリン達も同じなようで、皆が一様に首を傾げている。

「……この国には、『もう一度戦おう』なんて言える余裕は無いぺこなんだよ」

 けれども、女王の部屋を出ていこうとする足は止まらない。
 それどころか私は、去り行く彼女の背中を見つめていてもなお、その言葉の意味を理解できないのだった。

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