第3話

おかえり、って言ってみたかった
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2025/05/23 04:00 更新



















放課後の教室は、少し肌寒かった。

周りの生徒たちはそれぞれの帰り支度をしていて、僕も鞄に教科書を詰めていた。
ふと隣を見ると、勇志は窓の外をぼんやりと見つめていた。





「……桜、綺麗だね」





そう呟いた勇志の声は、風の音に溶けてしまいそうなくらい小さくて、
けれど、どこか届いてほしいと思ってるように聞こえた。




「……そうだな」





僕はそれだけ返したけど、どうしてかもう少し話していたかった。






「ここ、いい学校だね。みんな明るいし」



「まあ、うるさいだけだけどな」



勇志が少しだけ笑った。その笑顔は、なんというか




――








痛みを知ってる笑い方だった。
きっと彼も、何かを抱えているんだって、直感した。






その日の帰り道、偶然にも僕たちは同じ方向だった。
歩幅も、歩く速さも、なんとなく合っていて不思議だった。

「前田くんって、さ……」




「“陸”でいいよ」






「あ、うん……陸って、静かだね」





「そういう勇志こそ、初日からぼんやりしすぎじゃないか」





「そう? ……そっか、僕、浮いてるのかな」




「浮いてはないけど、なんか……消えそうだな、って思った」






僕がそう言うと、勇志は一瞬だけ足を止めた。
目だけが、まっすぐ僕を見ていた。






「それ、……意外と当たってるかも」






小さな笑いと共に返されたその言葉に、理由はわからないけど、胸がぎゅっとなった。






帰り道の途中で分かれたあと、僕は空を見上げた。
もうすぐ日が沈む。
春なのに、少し肌寒い。





「……おかえり、って言ってみたかったな」







なぜかそんな言葉が、喉の奥でこぼれそうになった。
初めて会ったはずの君に、どうしてこんな気持ちになるんだろう。






春風が、そっと吹いた。
勇志の背中が、遠くに揺れていた。




——

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