Yushi side
転校初日。
新しい制服、新しい校舎、新しい名前の呼ばれ方。
全部が「初めまして」なのに、どこか遠くから見てるような気がしていた。
それでも教室に入った瞬間、隣の窓から差し込んだ光と、
ひとりだけ僕をじっと見つめていた男の子が目に留まった。
……あの人だけ、違った。
他の誰よりも静かで、でも目だけがまっすぐだった。
前田陸。
きっと、関わらないほうが楽なのに。
でも、隣に座ってから気づいたんだ。
この人の近くは、苦しくない。
放課後、僕が窓の外を見ていたのは、
ただの習慣みたいなものだった。
光の強さや、空の色、桜の散り方。
それを見て、「また春が来たんだ」って自分に言い聞かせる。
——まだ、生きてるんだって。
「……桜、綺麗だね」
つい、声に出してしまった。
そしたら隣の陸が、「そうだな」って返してくれて。
なんでもない会話なのに、それがやけにあったかくて、嬉しかった。
帰り道、隣を歩く陸の存在が気になってしかたなかった。
「前田くんって、さ……」
「“陸”でいいよ」
あっけなく返されて、少しだけ笑ってしまった。
会話のテンポが心地よくて。
でも油断してたら、陸が言ったんだ。
『なんか……消えそうだな、って思った』
……胸の奥を、鋭く突かれた気がした。
バレた。
この人、きっと僕の中にある“嘘”に気づいた。
笑ってるけど、本当は怖くてたまらないこと。
名前を呼ばれるたびに、「この人に迷惑をかけたくない」って思ってること。
それでも、陸の声は優しかった。
……この人といると、
「ここにいてもいいのかもしれない」って思えてくる。
ほんの少しだけ。
道の分かれ道で、陸が振り返った気がした。
でも僕は、振り返らなかった。
もし目が合ったら、
もっと好きになってしまいそうで、怖かったから。
——












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!