「待て!」
隊長と思しき兵士の声が響く。
「子供だろう?どうせ遠くへは行けん」
「.....先にこいつらだ、動くな」
剣先が2人の喉元に触れる。
ケヒョンは息を整えた。
__まだだ。
まだ、あの子たちは逃げている。
ここで暴れれば、ここで命を落とせば
軍は必ず追手を向けるだろう。
ケヒョン「……ご命令のとおりに」
その声は震えていなかった。
ジュンミンも何も言わずに両膝を地面につける。
その従順さに兵士たちは鼻で笑った。
「袋を」
粗末な麻袋が頭から乱暴に被せられる。
視界が遮られ、
腕、胴、脚に巻かれたロープが容赦なく食い込んだ。
ケヒョン「……っ」
突然体が浮き担ぎ上げられる感覚。
俵のように担がれ、バランスを崩そうものなら頭から落ちることは免れない。
もう人としては扱われないことを実感した。
それでも2人は歯を食いしばった
否、食いしばらなければならなかた。
___生きろ、あの子たちが生き延びるために。
_____________
揺れる荷車の中、
麻袋越しに感じるのは汗と鉄の匂い。
ジュンミンの潜めた息遣いがすぐ傍で聞こえる。
ジュンミン「……ヒョン」
かすれた声。
ケヒョン「大丈夫、あの2人なら必ず...」
それが2人が交わせた最後の言葉だった。
__________________________
「おい、これは……」
麻袋が外される。
眩しい光に二人は反射的に目を細めた。
目の前にいたのは脂ぎった笑みを浮かべた男。
「……へぇ」
値踏みするような視線が顔を、首筋を、身体を這う。
「顔がいいな」
次いで視線は耳と尾に移った。
「虎と黒猫......ネコ科か」
男は舌なめずりをしながらジュンミンの顔を上げさせる。
「当たりだな」
ケヒョンは低く唸りジュンミンから男を離そうとした。
だが、鎖が鳴りそれ以上の動きは許されなかった。
「おい暴れるなよ、商品」
_____________
「耐性を見ておかないとな」
奴隷商は小さな袋を取り出した。
甘く抗いがたい匂い。
マタタビだ。
一瞬で頭が白くなる。
ケヒョン「……っ」
ケヒョンは歯を食いしばった。
理性を必死に掻き集める。
____カンミン
____イジョン
名前を思い浮かべるだけで胸が締め付けられた。
だが身体は正直だった。
指先が震え、尾が勝手に揺れる。
ジュンミンは腰が崩れるのを必死に堪えていた。
ケヒョン「やめ……ろ……」
声が甘く掠れる。
そんな2人を見て奴隷商は愉快そうに笑った。
「はは、いい反応だ」
「ほとんど耐性なし、愛玩向きだな」
袋が引っ込められる。
その瞬間床に倒れ込む2人。
羞恥と屈辱が喉の奥に込み上げた。
_____________
「よし、決まりだ」
奴隷商は手を叩く。
「表に出すまでもない、ちょうどいい客がいる」
程なくして、扉の向こうから重たい足音が聞こえて来る。
「……最近いい獣人はいないのかね」
現れたのはいかにも高価な衣を纏った男。
「いますとも」
奴隷商は誇らしげに部屋の中央に繋がれた2人を示した。
「猫と虎の男の獣人」
「顔良し、耐性なし、しかも新品」
その言葉にジュンミンの息が微かに震えた。
2人を見定めるような絡みつく視線が気持ち悪い、
ケヒョンは睨むようにしてただ前を見据えていた。
____必ず生きて2人と再会する、
それだけがまだ手放せない希望だった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!