リノはジソンの手をしっかりと握り、暗い部屋から一歩を踏み出した。
冷たい空気が流れ込む中、薄暗い廊下が広がっている。
リノが先導し、ジソンはそれについて行くように歩き出した。
しかし、廊下に出た瞬間、目に映った光景にジソンは言葉を失った。
綺麗で豪華な装飾が施されていたであろう廊下は、瓦礫や破片で埋め尽くされ、
壁は所々崩れ、焦げた跡が無惨に残っている。
天井からは煙が漂い、所々から赤い炎の光が漏れていた。
まるで地獄のような光景だった。
ジソンは驚愕し、目を見開いて立ち止まった。
彼のか細い声が震えた。
これまで彼の世界は、ほとんどあの小さな屋根裏部屋だけで完結していた。
しかし初めて見た明るい外の世界が、こうして自分の目の前で崩れ落ちていく現実を目の当たりにして、
全てが崩壊していくかのような感覚に襲われていた。
リノはジソンの顔を見て、彼がこの光景にどれだけショックを受けているかを痛感した。
しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。
リノの耳には、城の外から響く敵軍の足音が聞こえていた。
時間は限られている。
リノは一瞬だけジソンの手を握り直し、決意を新たにしたように言葉を発した。
そう言うと、リノはジソンの小さな身体をひょいと抱き上げた。
突然のことにジソンは驚いたが、抗う間もなくリノの腕の中に収まった。
リノの胸板に頭が当たり、その体温を感じると、少しだけ安心感が広がった。
ジソンはそれでも不安だった。
しかし、リノは穏やかに彼を見下ろした。
そう優しく言うと、ジソンの顔にかかった髪をそっと撫でた。
リノはジソンをしっかりと抱きかかえ、そのまま急いで廊下を駆け抜けた。
瓦礫や崩れかけた柱を避け、揺れる床を足場にして、一気に階段へと向かって進んだ。
階段の手前には、崩れた天井から垂れ下がる瓦礫や、燃え盛る炎が行く手を遮っていたが、
リノは迷うことなくその中を突き進んだ。
リノは城の煙と炎の中、必死に駆け抜けた。
廊下の片隅を通り過ぎるたび、いくつもの崩れかけた部屋を目にしてした。
そして、いつしか二人が密かに逢瀬を重ねていた書物庫の前を通り過ぎると、
そこはもう以前のようなひっそりとした姿ではなくなっていた。
かつて静けさと安らぎを与えてくれたその場所は、
今や火に包まれ、熱気と煙が漂い、
本棚が倒れ、書物が灰と化していた。
リノは一瞬だけ立ち止まり、燃えさかる書物庫を見つめた。
あの場所で初めてジソンと心を通わせた日々が、
まるで遠い夢のように感じられた。
ジソンが震える声で呟いた。
しかし、もはや思い出に浸る時間はなかった。
まるで自分に言い聞かせるように呟いた。
しかし、その先に待つ道がどれだけ危険か、リノは分かっていた。
敵軍はすでに城の周りを取り囲んでいるに違いない。
それでも、ジソンをここから連れ出すと誓った以上、
どんな危険があろうともリノは引き下がるつもりはなかった。
階段をさらに降りていくと、音を立てて崩れ落ちる天井の破片が目の前に落ちてきた。
リノは咄嗟にジソンをしっかりと抱き寄せ、自分の背中でそれを防いだ。
背中に激痛が走ったが、リノは歯を食いしばって痛みに耐え、ジソンを守りこの城を出ることだけに集中した。
リノの顔は苦しみに歪んでいたが、その目はしっかりと前を見据えていた。
ジソンが心配そうに呟いたが、リノは笑みを浮かべて首を振った。
少し苦しそうに言いながらも、彼の声には揺るぎない強さがあった。
その言葉を聞いて、ジソンの目から再び涙が零れた。
廊下を駆け、ついに城の入り口が見えてきた。
外は火の粉が舞い上がり、街が炎に包まれている様子が見えた。
リノはしっかりとジソンを抱きかかえたまま、その景色に目を向けた。
外へ出た瞬間、何が待っているかはわからない。
それでもジソンをここから連れ出す__
その気持ちだけで、リノは前へ進むことを選んだ。
二人が駆け抜ける度に、瓦礫が崩れ、火の粉が舞い散る。
世界が崩れ落ちる中で、リノの腕の中にいる限り、ジソンはその小さな希望を失わなかった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。