第34話

30.
255
2026/03/28 14:54 更新
SIDE 大貴
大貴
っ……、
トイレに逃げ込んだのが間違いだった。
1番最後に家で泣いた侑李を見たのはトイレだった。


『ごめっ、ごめんなさいっ...
 僕、っまたいらないって....言われ、っ?』

『りび、んぐ、っ...きのうのままでっ、
 こっ、、怖くてっ...っ』


頭の中で侑李の助けを求める声が響く。
あぁ、やめてくれ、もう。

思わず座り込んでしまったせいで
背中が冷たい。
なのに、目の奥は熱くて痛い。

自分の袖に涙が滲むのが悔しくて
また痛くて、熱くて。

侑李があんな酷い目にあっていたことを
「当たり前だ」と思う環境にさせてしまった。
俺が声をあげていれば
親に対抗していれば
何か変わったかもしれない。
この場所はおかしいと
侑李がもっとはやく思えたかもしれない。
そうすればもっとはやく
助けを求めてくれたかもしれない。
大貴
………ちがうだろ、
"求めてくれたかもしれない"?

なに侑李のせいにしてんだよ。
侑李は悪くないだろ。
俺が、俺が助けなかっただけだろ。

ーわかってたのに、あの日見ないフリをしたのは…ー

大貴
…俺だ、


なのに、なんで俺が泣いてんだよ。

泣きたいのは侑李だろ。



悔しい。


怖い。


俺も侑李を傷つけた1人になっていたら。


嫌だ。



怖い。



違う、俺が怖がっちゃいけない、



ごめん侑李。



悔しい

悲しい

怖い

嫌だ
逃げたい
助けたい
辛い
やめて
聞きたくない

怖い

怖い
怖い
怖い




ーーーーーーーーもう、わかんない………
大貴
…、っひ、
慧
大貴くん、そこ、暗くない?
喉が呼吸を拒否しそうになった瞬間、
ドアの外から
天使のような優しい声が
俺の頭の黒い雲の隙間から、優しく光を溢した。
SIDE 慧

なんて声をかけようか。
大丈夫?
いや、大丈夫なんて
あの頃の俺たちはそんな言葉大っ嫌いだった。
同じ思いはさせたくない。

行ってみれば、
トイレから啜り泣くような声は聞こえるのに
光は漏れていなかった。

暗い中、耐えてるんだな、、、。
怖いよな、、、。

そう思って口をついたのが"暗くない?"だった。
慧
そこ寒いでしょ。
夏は暑いくせに、冬になると
外みたいに寒いの、うちのトイレ。
鍵を開けてくれるきっかけになるように
あえてどうでもいいことを話してみる。
慧
暗いと余計寒いよ、出ておいで。
中からは、引き攣るような呼吸音がかすかに聞こえる。
苦しくなっちゃったかな。
余計出づらいかぁ…
慧
今外には俺しかいないからさ、
大貴くんが出られそう、
って思った時でいいから
もし鍵開けられそうなら、開けてほしいな
ストレートに言ってみた。

どんな声掛けをしたらいいかなんてわからないから
やぶひか兄さんならどうするかなって。

きっと、すごく優しい春のようなあの声で
ふんわりと暖かい風を送ってくれるんだ。

できるだけ、あの香りを纏わせるように優しく。


数秒の沈黙のあと、かちゃ…と控えめな音が響いた。

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