うん。もう、運命だよねー。そう、こんなふうに、わたしが現実逃避している理由は、1週間前に遡ることになる。
――所属アイドルの10代での妊娠。
この超ド級の不祥事について話し合うため、本日アイちゃんと斉藤社長と奥さんのミヤコさんがアイちゃんの自宅に集まった。
そして…そこに私もいた。
……いや、わかるよ。当然。アイちゃんと一番仲良いの私だもの。(ドヤ)そりゃ一番に聞かされたけど。
あと社長、『まさか、お前もじゃないよな!?よな!?』…わたしがね〜あるわけないじゃん!!!!!
社長に、目を向けつつ行った話し合いの結果、決まったことは以下の通りだ。
1、アイちゃんは、子どもを産む。(これは大前提。迷う素振りも見せなかった)
2、体調不良を理由に一年休養する。(まあ当然)
3、B小町も一年くらい休止。(……まぁ、当たり前むしろ、もっと休んでもいいんじゃ…)
驚いていたけど、当然の話だ。
現状のB小町はほぼアイちゃんを中心としている。
――というのが表向きの主張。
だけど、本当はアイちゃんに譲られる形でセンターをやるのが嫌だからというのもある。わたしは、昔からあのキラキラしているアイちゃんが好きで憧れていて…まさに最強で無敵のアイドル。
そうして、わたしは、アイちゃんの隣で九州行きの新幹線に乗っている。
怒涛の展開にもう頭がキャパオーバーだよ……。
…………。
………………。
……………………。
◇◇◇その一方で
宮崎県の地方病院に勤める産婦人科医、雨宮吾郎。
実は、彼は生粋のアイドルオタクである。
推しているのは人気急上昇中の新鋭アイドルグループ『B小町』
その中でも不動のセンターである『アイ』と風音というアイドルを推している!
数年前に入院患者の女の子――『天童寺さりな』に付き合わされて見始めたのがきっかけだが、今では彼自身立派な拗らせドルオタになってしまった自覚があった。
患者さんの部屋でライブ映像を上映して一人で盛り上がっている辺り(ペンライト装備)、同僚の看護師から『シンプルにキモい』と罵倒されても仕方ないヤベータイプのファンなのである。
「で、実際アイって子と風音ちゃんと告白されたら付き合うんですか?まぁ、アイ?という子は、置いといて風音ちゃんだったら許しませんよ?わたしの推しの女優なんだから」
「さーて、昼休みも終わりだ。仕事に戻ろっと」
「どうなんです、先生? さりなちゃんの名にかけて、どうなんです?」
そして、そんな彼は、今日も今日とて医者として頑張る。 ロリコンで引くわー、などと同僚に罵倒されても、その職責だけは何に代えても全うする。幼い患者の想いにかこつけて欲望を解放するキモオタであっても、そこだけは譲らない一端の医者であったのだ。
(でも、やっぱりロリコン扱いはキツい……。そりゃアイと風音から、『付き合って』と言われたらやぶさかではないけどそれとこれとは――――いやいやッ、今は患者に集中するんだ、吾郎!)
――パシン!
両頬を張って邪念を捨て去り、事前に出された患者のデータを読み込むのに力を入れた。
「そ、それで先生……どうなんでしょう?」
蒼い顔で質問する保護者の男性と、その隣に座る女性をチラリと見る。
帽子を目深に被って顔はよく見えないが……明らかに若い。いや、幼いと言ってもいい容貌だ。
(年齢は16歳。……なるほど、訳アリか)
保護者が語ったところ、彼女は施設育ちで家族もいないということだった。身寄りのない少女が16歳で妊娠……。訳アリも訳アリ、ちょっと嫌な想像をしてしまいそうな生い立ちであった。
(まだお腹はほとんど目立たない。10週行くかどうかってところかな?)
だが、遅くなり過ぎる前に初診に訪れてくれたのは良かった。『誰にも相談できずに悩みに悩んで』ということはなさそうだ。
「…ほんとうに、大丈夫?熱とかないよね? 気持ち悪いとかは……?」
「アハハッ、だーいじょうぶだってー。心配し過ぎー」
そして少女の隣にもう一人、心配そうに声をかける人物が座っている。
こちらも帽子で顔はよく見えないが、?お姉さんだろうか?明らかに彼女に対する気遣いが感じられた。
年齢と生い立ちから少し身構えてしまったが、妊婦本人は明るいし、優しく心配しているお姉さん?みたいな子がいるし、保護者が頭を抱えているのはまあ仕方ないが、話した印象からして、頭ごなしに義娘の意思を否定するタイプにも見えなかった。 総合的に判断して、そこまで拗れる案件ではないだろうと、吾郎は一旦気を緩めるのだった。
(しかし16歳で施設育ちか。どっかで聞いたような話だな。……まるで)
プロフィールの一致から、吾郎がとある人物のことを思い浮かべたそのとき――
少女が、ふっと帽子に手をかけた。
「やー、帽子ずっと被ってると暑いねー?」
「…………は?」
吾郎の視界を――圧倒的な光が包んだ。
「………………は?」
目の前に、推しのアイドルがいた。
…………。
………………。
「…………は?」












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。