虹が出た街は、少しだけ騒がしかった
近くでお母さんと手を繋いでいる幼稚園児は、虹を見てはしゃいでいた
その横にいたカップルも、夫婦も、とっても嬉しそうに虹を見つめた
ジョングクがそう言って、俺は我に返った
あ、またやらかしてしまった……と
さっきまで上がっていた口角は勢いよく下がり、普段使わない表情筋に負担をかけてしまった
虹なんて、見ること自体が久しぶりだったけど、こんなに綺麗だったかな
虹が、好き?
…いや別に
そんなこと考えたことないよ
ジョングクはニコニコしながら俺をからかった
たしかに、ジョングクより2個も上の俺があんなにはしゃいだのは恥ずかしいけど…
そんなことを考えてたら、さっきまで鎮まっていたのに首から頬、おでこまで熱が上がった
恥ずかしい
そんな感情の裏側で考えたのは、やっぱり、
どうしてそんなにジョングクは温かいんだろ、
そんなこと
だって、そんなに優しい目で、まるで動物を見るように愛おしそうに見つめられたことないんだ
そんなキラキラした純粋な目で見つめられたら…
女の子だったらきっと好きになっちゃうだろうな
嫌味でもなんでもないが、まぁ普通の人よりかはモテている自覚はあった
毎週のように受ける告白、毎日のように聞く俺のことを好きらしい子の噂
友達は彼女をつくると、告白されることは無いらしい
俺はそれを信じて彼女をつくったのに、告白が止むことは無かった
挙句の果てに、浮気を促してくる子まで……怖い
今思えばクソガキだった
勉強もやらないで、放課後は楽しくもないのに毎日のようにカラオケ、ファミレス
髪も、染めるのは校則違反なのに、茶色どころか赤・青・金、派手な色は全てやり尽くした
好きなことしかしないクソガキ……
けどひとつ言い訳をするなら、
とにかく誰かと遊んでいないと壊れそうだったんだ
誰かが隣にいてくれないと、俺を見てくれないと
自分が自分じゃなくなりそうで怖かった
間もなくして、ジョングクのバイト先、sugarに着いた
店には色とりどりの花があって、入口の花は水滴を弾き今にも水が零れ落ちそうだ
買うなら、触ってもいいだろうか
触れてみようか迷っていると、ジョングクがsugarのエプロンを着ながらこちらに来た
俺は花に詳しくないからなのか、もう何を言っているのか分からない
けど、ラナンキュラスっていうんだ、これ
それでフェラン?っていう品種名ってことかな
ジョングクは、は?とでも言いたげになんだか合点が言っていなさそうな顔をした
ジョングクは綺麗だよ
顔も、そのきゅるきゅるな目も、
俺を暖かく見つめてくれる心の優しさも
俺がそう言ったらジョングクは顔を真っ赤にして俯いてしまった
なんだか、まずいことを言ってしまっただろうか
俺はその可愛い顔から逃れるように、その場を去った
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!