俺の勘は正しかったらしく、
目を覚ますと病院だった。
交通事故に巻き込まれたものの、
幸い怪我はそこまでひどくなく、
ただ意識が戻らなかっただけらしい。
検査を終えて無事退院した俺が
真っ先に向かったのは、編集部だった。
電話でもいいと思ったけど、
編集者の顔が見たかったから。
俺の顔を見た瞬間、
そいつは泣きそうな顔になった。
漫画のことになると熱いけど、
他は淡々としているからちょっと意外。
俺の背中を押して会議室に向かった編集者は、
声を詰まらせて目を拭った。
俺が椅子に腰を下ろすと、
またすぐに勢いよく喋り始める。
俺の作品を好きになってくれた。
だから声をかけてくれた。
「もっと多くの人に見てもらうべきだ」
って言ってくれていた。
それを俺は、自己満だけでつぶそうとしたんだ。
それから、俺は編集者との……
持永さんとの話し合いの時間を
多く設けるようになった。
もっと多くの人に見てもらいたい。
だけど俺は所詮新人だ。
物語の作り方もマーケティングのことも
何も分からない。
だから俺はこういう事が描きたい、伝えたい
っていうことを持永さんに言って
持永さんが案を出してくれる。
妥協はしない。
下手に譲ったりもしない。
お互いがちゃんと納得できるまで、
とことん話し合った。
その結果、『ナチュラルデイズ』は
どんどん多くの人に
見てもらえる作品になっていった。
急に黙り込んだ持永さんを見ると、
顔を覆っていた。
外した眼鏡を拭いている持永さんの表情は、
本当に柔らかくて優しかった。
『ナチュラルデイズ』の成功を、
まるで自分のことの様に
喜んでくれているのが分かる。
そりゃひとりぼっちにだってなる。
自らひとりぼっちになってたんだよな、俺は。
そんな優しくも熱心な持永さんと
一緒に描き続けた『ナチュラルデイズ』。
黒月は見てくれているだろうか。
お前の救いに、俺はまだなれてるか?
あいつのことを全部知ってるわけじゃない。
けど、わかる部分だってある。
アイツの『ナチュラルデイズ』への熱意は
持永さんと同じものを感じる。
弱弱しい癖に、
譲れない部分に関しては頑固になる。
根っこの部分はおそらく俺や真斗に似ている黒月は、
決して優しくはない。
自分で気付いているかは不明だが
微かにエゴイストの片鱗がある黒月は、
生きる糧を簡単に捨てるとは思えない。
不安がないと言えばウソにはなるが、
それでも俺は黒月が見てくれていると信じて描き続けた。
またアイツに会うために。
そして決まった単行本化。
そしてサイン会開催。
きっと、黒月は来る。
そう信じて、俺は赤いパーカーを羽織った。
あの世界で、
高校生の俺が着ていた赤いパーカー。
本来ならスーツとかの方がいい気はするけど、
でも持永さんも許してくれたし良しとする。
そしてサイン会が始まった。
たくさんの人が
『ナチュラルデイズ』のために来てくれて、
好きだと言ってくれる。
読者の言葉一つ一つに、俺は救われていく。
こんなにもたくさんの人の心に届いていたのか。
俺だけの力じゃないのは分かってる。
でも純粋に嬉しかった。
俺を救ってくれる読者がいるから、
俺はこれからも描き続けていける。
だって。
俺はもう、ひとりぼっちじゃないから。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!