第29話

第二十九話
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2024/10/26 11:00 更新


ノイズがかかった世界で
ひとり取り残された俺に、
はっきりと声が聞こえてきた。

黒月想
黒月想
俺が傍に居るから!
折原成
折原成
(……真斗の、セリフ……)
それは真斗が三葉に向けて
言ったセリフだった。
孤独に打ちひしがれそうだった
三葉を救うセリフ。
望まないくそみたいな展開の中に
俺がねじ込んだ、俺が考えたセリフ。
折原成
折原成
(俺が……
言って欲しかったセリフ……)

その言葉に導かれるように顔を上げれば、
真っ暗だった世界に一筋の光が差し込んでいた。
手をのばせば、その光を掴むことが出来る。
折原成
折原成
(……あったけぇ)
じんわりと全てを溶かしてくれるような
優しい感覚。
折原成
折原成
(真斗も、
こんな陽の光を浴びてたのか)
未だかつて、
こんな感覚を味わったことがあっただろうか。

……いや、あったな。
知ってる。
一度目を閉じて再度開けば、
ここが空き教室だということが分かる。
床に散らばるちぎられた紙たちの中心で、
俺は黒月に抱きしめられていた。

臆病なくせに、弱いくせに、
俺を何度も引き留めた黒月。
言葉に出来ないからか、
いっつもこうやって俺にしがみついてたっけ。
折原成
折原成
……お前は
黒月が、俺を見た。
弱弱しいやつだと思っていた黒月は、
意外と目力があることに初めて気づく。
折原成
折原成
お前はこの物語が好きなのか?
黒月想
黒月想
大好き。
めっちゃ好き
黒月想
黒月想
だって、俺は
この物語に救われてたんだ
はっきりそう告げた黒月は、会話のキャッチボールが下手くそだったやつとは思えない程たくさんの言葉を紡いだ。
黒月想
黒月想
お前だって知ってるだろ?
俺、いじめられたんだよ。
助けてくれるやつもいなくて、
ずっとひとりだった
黒月想
黒月想
孤独だった。
楽になりたいって、思ったこともある。
でも、俺は生きてた
黒月想
黒月想
俺には『ナチュラルデイズ』があったから
折原成
折原成
……それが好きだから、生きてたって?
黒月想
黒月想
まぁ単純に続きが読みたいって
感情もあったけど……。
それも立派な生きる理由だろ?
黒月想
黒月想
それだけじゃない。
俺は、『ナチュラルデイズ』に
寄り添ってもらってたんだ
黒月想
黒月想
独りじゃなかった
折原成
折原成
独りじゃなかった……か
黒月想
黒月想
何があっても立ち上がる三葉も、
言いたいことをはっきり言う真斗も、
俺の傍にいてくれるような気がしてたんだ
黒月想
黒月想
一緒に物語を歩んでいる気がしてた
黒月想
黒月想
『ナチュラルデイズ』を通して、
作者の花織ルラ先生も
傍に居てくれてる気がした
折原成
折原成
作者も?
黒月想
黒月想
そう。
だって、三葉たちの言葉は
全部花織ルラ先生が生み出したものだろ?
黒月想
黒月想
だから二人を通して先生にも
「傍に居る」って、
言ってもらえた気がしたんだ
折原成
折原成
…………
黒月想
黒月想
だから、俺は生きてた
黒月想
黒月想
独りじゃなかったから。
『ナチュラルデイズ』があったから
折原成
折原成
(過去の俺を救うためだけに
描こうとしてた物語が、
黒月を救ってたのか)



折原成
折原成
(……あぁそうか。
俺は独りよがりだったのか)



俺は俺しか見てなかった。
過去の俺を幸せにすることしか
考えてなかった。

だけど真斗は違う。
誰かを救えるなら
自分を犠牲にすることも厭わない。
折原成
折原成
(誰かに傍にいてほしいなら、
まず自分が誰かに寄り添えるように
なんねぇとな)
偶然にも黒月は「花織ルラ」に
寄り添ってもらっていると感じていた。
だから、黒月は
俺に寄り添おうとしてくれた。
折原成
折原成
(俺の手から離れて、
こんな風に受け取ってもらってたのか、
『ナチュラルデイズ』は)
窓の外から聞こえてくる
楽しそうな声。
見ると、そこには
手を繋いだ三葉と真斗の姿があった。
折原成
折原成
(この世界はそれを教えてくれたのか。
そうか、だから、)
折原成
折原成
……俺がどれだけ壊そうとしても、
勝手に動いてくんだな……
黒月想
黒月想
え?
俺が癇癪を起こして壊そうとした物語。
大嫌いだったこの世界。

この世界は過去の俺を救ってはくれなかった。
だけど、黒月を救っていた。
黒月はこの世界を、
俺の作り出した物語を愛してくれていた。
折原成
折原成
この物語はもう、
俺だけのものじゃないんだな
黒月想
黒月想
なん、
黒月の声に被さるように
ジジ、とノイズがかかる。
あぁ、もうこの世界ともおさらばだ。


不思議と、
死ではなく元の世界に戻れるのではないか
という確信があった。


折原成
折原成
(ずっと嫌だったはずなのに、
ちょっと寂しいな)
なぁ黒月。
俺もう少し頑張るから。

だから、
お前ももう少し頑張って生きろよ。



俺も、お前が傍にいてくれると思えば、
もっとちゃんと現実と向き合える気がする。

だからお前も、もう少しだけ俺に……
「花織ルラ」に救われててくれ。

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